ラテン語文法の初歩


以下は、学生に配付したプリントです。参考文献にあげた一部を参考に、科目の目的にかなうような範囲の理解のためにまとめたものです。(もし疑問の点がございましたらお知らせ下さい)

web版のための凡例:

・長母音を示す記号は通常文字の上にバーを付けるが、アンダーバーに代える。例:e,o
(現在、#マークに文字化けしていますが、少しずつ直していくつもりです)
・プリント版との相違部分は下線で示した。


ラテン語文法の初歩

目 次

I アルファベット・発音 ───────── 3

    【練習問題1】 ・・・・7
[身近なラテン語(1)―自動車] ・・・・9
[Paster Noster「主の祈り」] ・・・・10
[身近なラテン語(2)―〈論文を読む・書く〉]・・・・11

II 動詞とその活用 ─────────13
 1. ラテン語の動詞とは ・・・・・・・・ 13
 2. 活用 ・・・・・・・・ 15
    【練習問題2】 ・・・・17

III 名詞の基本 ─────────18
 1. ラテン語の名詞とは ・・・・・・・・ 18
 2. 変化 ・・・・・・・・ 20
 3. 第1変化名詞 ・・・・・・・・ 22
 4. 第2変化名詞 ・・・・・・・・ 23
    【練習問題3】 ・・・・25
    [ラテン語の統語法(シンタックス)]・・・・26
 5. 第3変化名詞 ・・・・・・・・ 27
 6. 前置詞について ・・・・・・・・ 32
    【練習問題4】 ・・・・34
 7. 属格の用法について ・・・・・・・・ 35
 8. 与格の用法について ・・・・・・・・ 36
 9. 第4変化名詞 ・・・・・・・・ 37
10. 第5変化名詞 ・・・・・・・・ 37


IV 形容詞 ─────────38
 1. ラテン語の形容詞とは ・・・・・・・・ 38
 2. 形容詞の変化 ・・・・・・・・ 39
 3. 形容詞の用法 ・・・・・・・・ 41
 4. 副詞 ・・・・・・・・ 42
 3. 形容詞の用法 ・・・・・・・・ 41
    【練習問題5】 ・・・・43

V 代名詞 ─────────44
 1. ラテン語の代名詞 ・・・・・・・・ 44
 2. 人称代名詞・再帰代名詞(および所有代名詞(所有形容詞))・・・・・45
 3. 指示代名詞・所有形容詞 ・・・・・・・・ 47
 4. 関係代名詞/疑問代名詞・形容詞 ・・・・・・・・ 50
 5. 不定代名詞・不定形容詞 ・・・・・・・・ 51
 6. 代名詞的な働きをする形容詞(代名詞的変化をする) ・・・・・・・・ 52

VI 動詞の時制・法の概観 ─────────53
 1. ラテン語の動詞の文法的性格(概観) ・・・・・・・・53
 2. 動詞の法──直説法と接続法(概観) ・・・・・・・・54
 3. 動詞の時制──未完了と完了 ・・・・・・・・54
 4. 動詞の概観 ・・・・・・・・56
 5. 完了系 ・・・・・・・・56
    【練習問題6】 ・・・・61
 6. 分詞 ・・・・・・・・62
 7. 未完了系 ・・・・・・・・64
 8. 受動態 ・・・・・・・・65
 9. 形式受動態動詞(デポネンティア) ・・・・・・・・66
10. 非人称動詞 ・・・・・・・・68
11. 不定法 ・・・・・・・・69
12. 動名詞 ・・・・・・・・70
13. 動形容詞 ・・・・・・・・71
    「ラテン語の造語法」・・・・73-81
14. 奪格別句 ・・・・・・・・82
    補足説明(不定法) ・・・・83

VII 接続法 ─────────84
 1. 接続法(概観)・・・・・・・・84
 2. 接続法の用法(単独で)・・・・・・・・87
    「学生の歌」Gaudeamus igitur・・・・88
 3. 接続詞について・・・・・・・・89
 4. 時制の対応関係(consecutio temporum)・・・・・・・・90
 5. 接続法の用法(単独で)・・・・・・・・54




I アルファベット・発音

THE ALPHABET・PRONUNCIATION

大文字

capital letter

小文字
small letter
名称・読み方
name・sound
音価
phonetic value
A a a a, a
B b be b
C c ke k
D d de d
Eeee, e
Ffeff

G

g

ge

g

H

h

ha

h

I(J)

i(j)

i

i, i /j

K

k

ka

k

L

l

el

l

M

m

em

m

N

n

en

n

O

o

o

o, o

P

p

pe

p

Q

q

ku

kw

R

r

er

r

S

s

es

s

T

t

te

t

V(U)

v(u)

u

u, u /w

X

x

ix

ks

Y

y

y

y, y

Z

z

zeta

z
5
この第 I 部が特に必要となるのは実際に読まれる場合である.しかしその他に、後で語形変化を効率よく習得するためにも役に立つ.母音や音節の長短は、アクセント規則の理解に適用できるし、詩などの韻文の韻律の理解には欠かすことができない.

 1.アルファベット
日本人にとってラテン語の読み方は簡単。基本的に“ローマ字”式に読む。
1-1古典期には大文字しかなかった(ローマ時代の石碑等参照)。小文字は中世にできた。〈『新ラテン文法』参照。以下、新ラと略〉
1-2大文字は、慣例にしたがって、文頭、固有名詞とその派生語(形容詞、副詞)に用いる。〈新ラ〉
例:Pax Romana (<形容詞Romanus,-a,-um)
2.母音vowel

2-1 単母音simple vowelとは要するに一文字で表す母音
2-2 Iは半母音[j]にも用いる。しかし半母音にJ, jをあてる場合があり、辞書によってこれらを区別するものと、していない(“ I ”の項目に一緒にしている)ものとがあるので注意。
2-3 Vは半母音[w]にも用いる。しかし母音の場合に専らU, u半母音にV, vをあてる場合があり、辞書によってこれらを区別するものと、していない(“ U ”または“ V ”の項目に一緒にしている)ものとがあるので注意。
2-4 複母音diphthong(あるいは二重母音)
ae saeculum時代[サエ・ク・ルム]
oe poena罰[ポエ・ナ]
(ただしoとeを別々に発音し複母音にしない時、ドイツ語ウムラオトのようにすることも。poeta詩人)
au auraそよ風[アウ・ラ]
4

eu eurus南東風[エウ・ルス]
ei deindeそれから[デイン・デ]
(複母音のようにみえて別々に発音するものがあるので要注意↓)
e.g. rei→re-i[レ・イ](<resの属格)、deus→de-us[デ・ウス](神)
ui hui(間投詞)ああ![フイ]
3.子音consonant
3-1 子音の種類(分類)
唇音
labials
歯音
dentals
喉音
palatals
黙音mutes
有声音voiced(mediae)
b
d
g
無声音voiceless(tenues)
p
t
c
帯気音aspirates
ph
th
ch
鼻音nasales
m
n
n(n-c,g,q)
流音liquids
-
l,r
-
擦音fricatives(spirants)
f
s,z
半母音semivowels
v
-
子音のi
複子音double consonants: x (=ks), z (dz)
3-2 qu[kw]:Q,qはつねにQu,quの形で表れる。しかも必ず母音の前。
(このuは母音ではなく“半母音”。しかしqvとはしない)
3-3 b[p]となる場合:bの後にs,t、つまりbs [ps], bt [pt]
3-4 j[i j]となる場合:母音+j+母音のとき。major[マイヨル]
3-5元来は、C, cの音は[g]であったが、G, gがつくられて[g]の音を表すと、
C, cは[k]を表すようになり、K, kはKalendae〈朔日〉以外に使われなくなった。Y,yおよびZ, zはギリシア起源の語にしか使われない。
3-6 s[s], v[w]に注意。rosa[ロサ]、vox[ウォクス]
3-7 ph[p], th[t], ch[k]
5

4.音節syllable
4-1音節の数=母音(単母音、複母音)の数。子音の有無に関らず。
4-2音節の分け方
(1)〔母音のみ〕de-a女神
(2)〔一個の子音+次の母音〕
(3)二個連続の子音→〔..母音+子音〕〔子音+母音...〕mit-to(私は)送る
(4)三個以上の子音→〔..母音+子音子音〕〔子音+母音..〕sanc-tus聖なる
(5)切り離されない子音:[黙音(p,t,c, b,d,g), f +流音(l,r)]
e.g. tem-plum神殿、A-fri-caアフリカ、cas-tra陣営
(6)合成語は、その構成要素ごとに区切る。
4-3音節の長短
(1)〔..短母音..〕→短い音節、〔..長母音/複母音..〕→長い音節
(2)〔..短母音+二個以上の子音・複子音(x,z)〕→長い音節
(ただし4-2(5)切り離されない子音[黙音(p,t,c, b,d,g), f +流音(l,r)]を除く。)
この場合、音節は位置によって長いとみなされる。これらの子音は同じ音節内にある必要はない。
(3)〔..短母音+[黙音(p,t,c, b,d,g), f +流音(l,r)]〕
→長短共通。韻律法の都合でどちらにも。
5.アクセント
5-1 2音節目が〔長い〕ならばそこにアクセント。2音節の語は無条件に。
5-2 2音節目が〔短い〕ならば3音節目にアクセント。〔長短共通〕も。
5-3 例外:後倚辞(こういじ)-que, -veなどの直前
第二変化名詞-iusの属格、呼格/第二変化名詞-iumの属格
→主格のときのアクセントをたもつ
6

【練習問題1】
以下の語を、(1)長母音・二重母音を注意し、(2)アクセントある部分に下線を引いて、読みをカタカナで書きなさい。
1. Syracusae
2. lac
3. appello
4. plurimus
5. homines
6. Horatius
7. Propertius
8. Sallustius
9. Tacitus
10. Vergilius
11. Catullus
12. Ovidius
13. Iuvenalis
14. Iuppiter
15. Neptunus
16. Vertumnus
17. Ianus
18. Appollo
19. Proserpina
20. Hercules
21. Diana
7

22. Italia
23. Graecia
24. Europa
25. oeanus
26. Gallia
27. Sicilia
28. Aegyptus
29. Corinthus
30. Ephesus
31. Antiochia
32. Athenae
33. Verona
34. Asia
35. Gernania
36. Phrygia
37. Labyrinthus
38. Diana
39. gratus
40. despero
41. arripio
42. totus
43. transeo
44. tamen
45. Silvia
8

身近なラテン語(1)──自動車の場合

『はじめてのラテン語』118-120参照

◆舶来車編...
Mercedes──merces(名gen.mercedis)CL:報酬、料金、EL恵み。複数形。
[F]merciの語源。
Volvo──volvo(動)「回転させる(1sg.私は〜)」元軸受メーカ。
Audi──audio(動,-ere)の命令法。「聞け」。
創業者Holch (<holchen「聞く」の命令形)のラテン語名(?)
Fiat──fio(動,fieri)なる、〜が生じる、の接続法(3sg.)「かくあれ」。
神が天地創造のことば、聖母マリアがイエス受胎を受け入れた言葉。

◆国産車編...
Capella──capella(名)「雌ヤギ」
Corona──corona(名「冠」)
Corolla──corolla(名「ちっちゃい冠」)
Cresta──=crista(名「とさか」)
Cultus──cultus(名gen.-us)「文化」
Familia──famIlia(名)「家族」
Celsior──celsus,-a,-um(形容詞)「そびえる」の比較級(m.f.)
Integra──integer,-gra,-grum(形容詞)「完全な」の(f.)
Maxima──magnus,-a,-um(形容詞)「大きい」の最上級(f.)
Innova──innovo(動)「革新する(1sg.私は〜)」の命令法
Supra──supra(前置詞.c.acc.)「〜の上に、かなたに」
Ipsum──ipse, ipsa, ipsum(強意代名詞)「それ自身の」の(n.)

9

Pater Noster「主の祈り」
 Pater noster, qui es in caelis:
  sanctificetur nomen tuum;
  adveniat regnum tuum;
  fiat volutas tua, sicut in caelo, et in terra.
  Panem nostrum cotidianum da nobis hodie;
  et dimitte nobis debita nostra,
 sicut et nos dimittimus debitoribus nostris;
  et ne nos inducas in tentationem;
 sed libera nos a malo. (c.f. Mt.5.9-13)

Ordo Missae Cum Populo(1975 edition)

参考:「聖公会・カトリック共通口語訳」
天におられる わたしたちの父よ
御名が聖とされますように
御国が来ますように
御心が天に行われるとおり、地にも行われますように
わたしたちの日毎の糧を きょうもお与えください
わたしたちの罪をお赦しください、わたしたちも人を赦します
わたしたちを誘惑に陥らせず、悪からお救いください
10

身近なラテン語(2)──〈論文を読む・書く〉に役立つ略号

崎村耕二『英語論文によく使う表現』(創元社)193-203参照

→この書はとてもお買い得。役に立ちます。

略号
abbr.
<abbriviatio [E]abbriviation「略号」
AD (A.D.)
Anno Domini〔abl.<annus年に〕〔gen.<dominus主の〕
時・場所を表わす奪格の用法。
anon.
<anonymus [E]anonymous「作者不明の」
app.
[E・L]appendix「付録」
c. (ca.)
circa prep.(+acc.)「約〜、ほぼ〜」
cf.
confer imper.< conferre inf.<confero「比較せよ」
命令法は(現在)不定法の-reを除いた形。
注"see"「〜を参照せよ」と混同しないように
ch., chap.
cap.
[E]chapter「章」<[L]caput
col.
[E]column<[L]columen,columna「柱→欄」
comp.
[E]compiled,compiler「編集された、編集者」<[L]compilo,compilar
Cong.
[E]congress<[L]congressus「会合→議会」
diss.
「博士論文」<dissertatio「議論、論説、論弁」
doc.
「資料」「議会資料」<documentum「教え、教訓、証明」
ed.
「版」1.<editio,「〜による編集」2.[E]edited(by),「編集者」3.editor
e.g.
exempli gratia=[E]for example「例えば」gratia+gen.〜のために gen.<dominus主の〕 例See e.g.,pp.35-42
et al.
et alii(et aliae)=[E]and others
共著者4人以上で省略する場合。例:"Radolf Quirk et al."
etc.
et cetera=[E]and so on <ceterus,a,um adj.n.pl.(-a)
学術論文本文中には使用しない
ex.
exemplum=[E]example「例」
fig.
figura=[E]figure「図」
ibid.
ibidem adv.「(直前の注と)同じ場所に」
脚注最初で頭文字にする。同著作の別頁なら→例:Ibid.,p.56
i.e.
id est=[E]that is おもに( )内で用いる
loc.cit.
loco citato 「すでに引用された場所(文章)に」abl.<locus,i,m.場所に〕〔abl.<p.p.citatus<cito引用された〕
例:Jones, loc.cit.
ms.(MS.)
manuscriptum=[E]manuscript
n.(複 nn.)
nota=[E]note :See n.17「注17を見よ」See p.153n「153頁の注を見よ」
op.
opus「(音楽の)作品番号」

11

op.cit. opere citato 「すでに引用された著作中に」
〔abl.<opus,operis,n.著作に〕〔abl.<p.p.citatus<cito引用された〕例:Jones, op.cit., p.72.
p.(pp.) pagina=[E]page
par. paragraphus=[E]paragraph「段落」
passim passim adv.「(作中)いたる場所に」
→例:Pages 25,31, et passim「25,31頁および各所に」
rept.
[E]reported, report<[L]reporto「持ち帰る→報告する」
rev.
[E]revised, revision<[L]revisio,reviso「再び見る→改訂」
rpt.
[E]reprinted, reprint (<[L]re-premo,<pressus,a,um)「再刊、復刻」
sec.
[E]section [L]sectio「節」「項」<「区分」
ser.
[L・E]series「叢書」「〜集」<「連続、部門、系統」
sess.
[E]session [L]sessio「会期」<「会合」
sic
[L].「原文のまま」 [ ]中に必ずイタリックにし原文引用直後に。
例:"He asked for papper[sic]." "He asked for papper"(sic).
supp.
[E]supplement [L]supplementum「補充→補遺、増刊号」
trans. (tr.)
[E]translated,translation [L]translatio「翻訳」<transfero
例: Lady Murasaki, The Tale of Genji, trans.Arthur Waley.
ts. (TS.)
[E]typoscript [L]typoscriptum「タイプ原稿」(→ms.)
univ.
[E]university [L]universitas「大学」
UP
[E]University Press 例:Oxford UP U of Chicago P
viz.
[L]videlicet「すなわち」
vs. (v.)
[L]versus「対」
vol.
・文頭におく時は、頭文字を大文字にする。
・ラテン語の略語は、以前はイタリック体にする慣習があったが、現在は "sic"のみ。
・略語の使用は、脚注、文献リスト、図表に限る。

※ラテン語がそのまま使用されている場合の他、ラテン語の"英語化"されたものが使用されたものは比較してみたい。

12

II 動詞とその活用
 
1. ラテン語の動詞とは

  1-1.動詞1語が表わすもの
ラテン語の動詞はその1語だけで、〈その動詞が表わす動作・状態〉、およびその動作・状態の〈主体(→主語,文法的に人称・数)〉が表わされる。
例:Veni, vidi, vici「来た、見た、勝った」Suetonius『ローマ皇帝伝』
この三つ目を「買った」にしてどっかの安売り店の広告に使われそう? ユリウス・カエサルが「ポントスの戦い」での勝利を元老院に報告した時の言葉だという。ところでこれら三つは、各々独立した動詞。これらはそれぞれの表わす動作・状態が、1人称単数(つまり「私は〜」)を主体としているものであることを示している。それで、正確な訳は、Veni「私は来た」, vidi「私は見た」, vici「私は勝った」、となる。ちなみに関連する英語を探すと、vidi→video, vici→victory, veni→ prevenient(先行する<先に+行く)。
例:Cogito ergo sum「我思う故に我在り」Descartes『方法序説』
コーギトー・ルゴー・ム。cogito(私は)考える、sum(私は)ある

 1-2.〈人称語尾〉
まず、主語を表わす人称・数は、(動詞の)語の最後にくっついている〈人称語尾〉という語尾endingで示される(、10)。
(正確には、以下の〈法〉〈態〉〈時制〉という文法的な次元によって人称語尾のパターンが変わる。あとで教科書の個々の箇所で、または動詞の活用表で確認せよ。)
(前項の例での三つの動詞は、人称語尾が〈完了〉時制――〈直説法〉〈能動態〉の――のもの。この時制の人称語尾はどちらかといえば例外的なパターン。→、109)
 1-3.〈動詞幹〉+〈人称語尾〉
ラテン語の動詞は基本的に変化しない部分〈語幹〉と、変化する〈語尾〉とから成る。動詞の場合、語尾における変化を活用と呼ぶ。
(この〈語幹〉+〈語尾〉という構成は、実は名詞も同じで、以下のように比較できる。)
  動詞:〈動詞幹〉+〈人称語尾〉
  名詞:〈名詞幹〉+〈(格・数の)語尾〉
13

(ただし、これら〈語幹〉はさらに、これ以上分解できない〈語根〉に、さまざまな文法的意味を与える〈接辞〉を加えたもの、と見ることができる)
 1-4.〈時制〉〈態〉〈法〉
 (1)〈時制〉
その動作・状態の「時」の区別として次の6の〈時制〉がある。
現在、完了、未来、未完了過去、過去完了、未来完了
ただし〈法〉によって時制の数が異なる。
 (2)〈態〉
主語が動作・状態の主体であることを示す能動態と、
主語が動作・状態を受ける(被る)ことを示す受動態がある。
 (3)〈法〉
ラテン語の動詞には、その動作・状態をどのような視点で示すのかによって、
直説法、接続法、命令法、不定法(不定詞)
の区別がある。出来事・事実を「直接」述べる直説法を以下中心に進める。
 1-5.活用のタイプ
ラテン語の動詞には、〈第1活用〉〈第2活用〉〈第3活用〉〈第4活用〉の4つのタイプがある。第3活用にはさらに〈第3b活用〉と呼ばれるものがあるが基本的には第3活用に含める。
(ある動詞は、必ずどれかの活用のタイプに当てはまる。同じ動詞が〔例えばamo〕法、態、時制の違いによってその活用のタイプ〔例えばamoなら第1活用〕が他の活用のタイプに変わる(シフトする)などということは無い。したがって、いったんその動詞の活用タイプが判れば、上記の4(5)タイプのうちの一つのパターンを当てはめればいいだけである。amoならばどの法、態、時制であっても第1活用のパターンを当てはめればいいだけなである。)
※ある動詞が、どの活用タイプであるのかを見分ける方法は後述。
14

 2. 活用
 2-1.活用のタイプの見分け方
 (1)ある動詞が、〈第1活用〉〈第2活用〉〈第3活用〉〈第4活用〉のどの活用のタイプをとるのかは、不定法(正確には不定法・能動態・現在)の形で見分けることができる(または、〈現在幹〉=不定法から語尾-reを除く部分、で見分けることができる)。
 (2)
活用
第1活用
第2活用
第3活用
(第3b)
第4活用
amo
moneo
duco
capio
audio
不定法
am are
mon ere
du ere
cap ere
aud ire
不定法 語尾
  -are
   -ere
-ere
  -ire
幹母音
  -a
   -e
     -e
  -i

3b活用は、1人称単数(正確には直説法・能動態、現在形の〜)語尾が-io
 (3)辞書での見分け方
ラテン語動詞は、一般に、4つの基本形が見出しに表示されている。
そのうち最初の二つは以下のとおり。
〔1人称単数(直説法・能動態、現在形の)〕〔不定法(能動態、現在形の)〕
これでその動詞の活用タイプが判る。
 2-2.能動態の活用(人称語尾)
 (1)ラテン語の動詞は、それがどの活用のタイプであろうと、同じ法・態・時制であれば、人称・数によって決まった人称語尾をもつ。
 (2)〈能動態〉の場合の人称語尾は、以下のようになる。
15

ただし完了形(時制)、不規則動詞(sumなど)を除く。

人  称

人称語尾
単数
1人称「私は〜」
-o (-m)
2人称「あなたは〜」
-s
3人称「彼/彼女/それ は〜」
-t
複数
1人称「私たちは〜」
-mus
2人称「あなたたちは〜」
-tis
3人称「彼/彼女/それ らは〜」
-nt

この人称語尾は当然、どの活用のタイプでも適用される。
確認のため、〈直説法〉〈現在〉の場合の各活用のタイプの例を見よ(、9)。
 (3)1人称単数の -mは、未完了過去、過去完了、あるいは接続法現在などで現れる。
 2-3.能動態の活用(sum)
「〜である」「〜は在る」
    一般動詞
単数
    1人称1sg.
 su m
-o (-m)
    2人称2sg.
 es
-s
    3人称3sg.
 est
-t
複数
    1人称1pl.
 su mus
-mus
    2人称2pl.
 es tis
-tis
    3人称3pl.
 su nt
-nt
16

【練習問題2】

1. 次の不定法の形(不定詞)で示した動詞の活用の型を答えよ。

lavare
cognoscere
gignere
parere
indicare
mordere
sanare
excusare
habere
quaerere

2. 次の各動詞(すべて1人称単数で示してある)の活用の不定法の形(不定詞)および活用の型を答えよ。
sano
indico
gigno
lavo
cognosco
pareo
mordeo
excuso
habeo
quaero

3. 上記2.の各動詞の活用(単数1人称〜3人称、複数1人称〜3人称)をすべて答えよ。

17

III 名詞の基本

(『楽しいラテン語』〔以下『楽ラ』〕の。を中心に。〜・およびァに対応)
 1. ラテン語の名詞とは
  1-1.名詞nomen[E]noun1語が表わすもの
 ラテン語の名詞はその1語だけで、その名詞が〈どんなモノ(物・者)、事〉であるかを表わすだけでなく、次の三つの文法的性質を示している。
 (1)その名詞が、男性m.=masculI#num・女性f.=fe#minI#num・中性n.=neutrumのいずれの(文法的な)性をもっているのか〈genus,[E]gender〉。
 (2)その名詞が、単数sg.=singula#ris・複数pl.=plu#la#risのいずれの(文法的な)数をもっているのか〈numerus,[E]number〉。
 (3)その名詞が、いずれの(文法的な)格をもっているのか〈ca#sus, [E] case〉。
〈その他の語との関係〉や〈文章中での役割〉などをこの格という文法的性質によって示している。
 全ての名詞は必ずこれら〈性・数・格〉の文法的性格を持っている。
 性は、その名詞固有のもので、数・格が変化しても変わらない。
 その性・数・格によって、名詞は語尾を変化de#clina#tion, [E]declensionさせる。(ただし5つの変化形=変化パターンがある→後述)
例:Vox populi, vox Dei「民衆の声は神の声」→天声人語
voxは辞書をみると vox, vocis f. 声.と出ている。
見出し語voxの形は、基本的に、単数・主格 の形をとる。
性はf. とあるから、女性名詞であることがわかる。意味「声(は)」。
populi, Deiの、単数・主格の形はpopulus, deus。それぞれ辞書でみると、
populus, --I#, m. 民、国民 deus, --I#, m. 神
見出しの第2項目 --I# は単数・属格の語尾の形(→後述)。
つまりpopuli, Deiはそれぞれこの単数・属格で、意味は、「民の」「神の」。
A=Bふうの構造の文章だが、 [E]beに相当する動詞が省略されている。
18

 1-2.〈格〉の基本的な意味
 名詞の格(という文法的性質)は、前項でも説明したように──〈その他の語との関係〉や〈文章中での役割〉など──を示している。例えば、
動詞の〈動作主〉──つまり〈誰が(〜する)〉を主格で表すのに対して、
その動作を被る対象[E]object(=目的語)つまり〈何を〉を対格で表す。
その他それぞれの格は、基本的には、次のような文法的意味をもっている。
格ca#sus
主格 nom.
(=no#mina#tI#vus) 主語を示す。つまり動詞の動作主を示す。
(またはそのモノを単に示す。)
「〜は」
属格 gen.
(=genitI#vus) 所属、帰属関係を示す。
(ある動詞・形容詞は、属格支配。
=補語として属格名詞を要求する→後述)
「〜の」
与格 dat.
(=datI#vus) 間接目的語を示す。
(ある動詞・形容詞は、与格支配。
=補語として属格名詞を要求する→後述)
「〜に」
対格 acc.
(=accu#sa#tI#vus) 直接目的語を示す。
(ある前置詞は、対格支配。→後述)
「〜を」
奪格 abl.
(=abla#tI#vus) 手段、原因、空間・時間的関係、などを示す。
(ある前置詞は、奪格支配。→後述)
「〜によって」
「〜において」
(これに呼格voc.= vocina#tI#vusを加えるべきだが、一部例外を除き主格に同じ→後述)
 1-3.〈名詞幹〉+〈変化語尾〉
 ラテン語の名詞は基本的に変化しない部分〈語幹〉つまり〈名詞幹〉と、変化する〈変化語尾〉とから成る。
(ただし語幹[E]stemは全変化を通じて変化しない基礎部分(語基[E]base)と同一とは限らない〔、18註(2)→後述〕。)
(変化語尾のパターンが、第1変化名詞()〜第5変化名詞(」)まで5つある。
→=、18, =、29+、30, 。=、37+、43, 「=、60, 」=、61)
(まず最初に覚えてほしいのは氈`。変化。形容詞の変化を覚えるために。→後述)
 1-4.変化のタイプ
ラテン語名詞の変化には、〈第泄マ化〉〈第変化〉〈第。変化〉〈第「変化〉〈第」変化〉の5つのタイプがある。
(ある名詞は、必ずどれかの変化のタイプに当てはまる。同じ名詞〔例えばrosa〕が数、格の違いによってその活用のタイプ〔例えばrosaなら第1変化〕が他の活用のタ
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イプに変わる(シフトする)などということは無い。したがって、いったんその名詞の変化のタイプが判れば、上記の5タイプのうちの一つの変化パターンを当てはめればいいだけである。rosaならばどんな場合でも第1変化のパターンを当てはめればいいだけなである。)
※ある名詞が、どの変化タイプであるのかを見分ける方法は後述。
 2. 変化
 2-1.変化のタイプの見分け方
 (1)ある名詞が、〈第泄マ化〉〈第変化〉〈第。変化〉〈第「変化〉〈第」変化〉のどの変化のタイプであるのかは、単数属格の形で見分けることができる。
 (2)変化のタイプ5種と実例
活用 第1変化 第2変化 第3変化 第4変化 第5変化
§18 §29+§30 §37+§43 §60 §61
単数・主格
(sg.nom.)
rosa servus
verbum
puer
ager
rex
corpus
ignis
mare
spiritus
genu
res
単数・属格
(sg. gen.)
rosae servi
verbi
pueri
agri
regis
corporis
ignis
maris
spiritus
genus
rei
単数・属格の
語尾の特徴
 -ae  -i  -is  -us  -ei
(名詞第3変化は、さらに〈子音幹〉タイプと〈i幹〉タイプとに分かれる。さらに詳しい解説は→後述)
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 (3)辞書での見分け方
ラテン語名詞は、一般に、見出しとして以下の三つが表示されている。
〔単数・主格〕〔単数・属格(の語尾)〕〔性〕
この第2項目でその名詞の変化のタイプが判る(上の表参照)。
 2-2.名詞の変化の一般的特徴
 (1)名詞の各変化タイプを覚えねばならない理由とは
ラテン語の品詞は、大きく分けると、
・活用するもの(動詞)
・変化するもの(名詞、形容詞、代名詞など──動詞から発展する分詞も)
に分けられる。
後者は厳密にいえばそれぞれ独自の変化をするが、基本形が名詞の変化。だから名詞のそれぞれの変化タイプを覚える必要がある。
特に、名詞第1変化〜第3変化は、まず最初に覚える必要がある。というのは、変化するものは〈名詞〉タイプと〈代名詞〉タイプとに分けられる。形容詞の変化は〈名詞〉タイプで、形容詞の変化は、ほとんどこれらを適用したものにすぎないからである。
 (2) 中性名詞の特殊性
どの変化タイプであろうとも中性名詞であれば、かならず主格=対格となる。
これは単数・複数とも適用される(〈-a〉または〈-ia〉)。
 (3) 呼格(語尾〈-us〉の第2変化・単数のみ〈-e〉。他は主格と同一。)
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   3. 第1変化名詞
 3-1.第1変化名詞の変化
Rosa  [ロサ]    バラ

単数sg.
複数pl.
主格 nom.
ros a
[サ]
ros ae
[サエ]
属格 gen.
ros ae
[サエ]
ros arum
[ロサールム]
与格 dat.
ros ae
[サエ]
ros is
[シース]
対格 acc.
ros am
[サム]
ros as
[サース]
奪格 abl.
ros a
[サー]
ros is
[シース]
 3-2.変化形から格を判断するために
この「rosa バラ」の場合には、単数ではスペルが、属格gen. と与格dat.が同じで、奪格abl.は主格と同じ(ただし発音に注意)、という少々ややこしい変化をする。さらに複数主格pl. nom.は単数の属格、与格と同じ。したがってrosae が属格なのか与格なのか、さらに複数主格なのかは、その文中における文法的役割によって判る。
その判断のために、それぞれの格の基本的な文法上の役割だけでなく、少し特殊な使い方(たとえばある種の形容詞は属格支配→後述)を覚えておく必要がある。
 3-3.第1変化名詞≒女性名詞
第1変化名詞は、ほとんど女性名詞。
職業名になっているものなどにごく少数の例外があることを理解しておけばよい。
例.agricola「農夫」、nauta「水夫」、poe#ta「詩人」、colle#ga「同僚」、scrI#ba「書記」など。
(※ag・ri-「農業の」の意、-naut「航行者」「推進する人」の意. astronaut.)
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 4. 第2変化名詞
  4-1.第2変化名詞の変化
格 servus [セルウス] m.しもべ
単数sg. 複数pl.
主格 nom. serv us [セルウス] serv I# [セルウイー]
属格 gen. serv I# [セルウイー] serv o#rum [セルウオールム]
与格 dat. serv o# [セルウオー] serv I#s [セルウイース]
対格 acc. serv um [セルウム] serv o#s [セルウオース]
奪格 abl. serv o# [セルウオー] serv I#s [セルウイース]
単数sg. 呼格 voc.= serv e
  4-2.基本的な変化語尾
この語尾が、第2変化名詞の基本。まずこれを覚える。
他の例として、vervum n., puer m., ager m.,の変化形は、上のservusと微妙に違うが、〈基本とどこが違うのか〉が覚えるために重要。
  4-3.呼格
名詞変化で、呼格が主格nom.と異なり別にして覚えねばならないのはこのservusのように、
〈@第2変化名詞で、A単数主格sg.nom.語尾-usの、B男性名詞〉
のものだけ。
しかもこれは単数の呼格-e(例:serve)だけで複数呼格は複数主格と同じだし、もちろんこの三つの条件に合わないものはすべて主格と同じ語尾。
  4-4.このパターンの例外
-ius, -iumに終わる場合は、単数属格sg.gen.語尾は-iI#ではなく-I#。
-iusに終わる場合も、単数呼格の語尾は-ie#ではなく-I#。
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  4-5.第2変化名詞――変則的パターン(1)中性名詞
格 verbum [ウェルブム] n.言葉
単数sg. 複数pl.
主格 nom. verb um [ウェルブム] verb a# [ウェルバー]
属格 gen. verb I# [ウェルビー] verb o#rum [ウェルボールム]
与格 dat. verb o# [ウェルボー] verb I#s [ウェルビース]
対格 acc. verb um [ウェルブム] verb a# [ウェルバー]
奪格 abl. verb o# [ウェルボー] verb I#s [ウェルビース]
中性名詞は必ず主格=対格となる。前述→2-2(2)
  4-6.第2変化名詞――変則的パターン(2)-er型
格 puer [プエル] m.少年
単数sg. 複数pl.
主格 nom. puer [プエル] puer I# [プエリー]
属格 gen. puer I# [プエリー] puer o#rum [プエロールム]
与格 dat. puer o# [プエロー] puer I#s [プエリース]
対格 acc. puer um [プエルム] puer o#s [プエロース]
奪格 abl. puer o# [プエロー] puer I#s [プエリース]
格 ager [アゲル]しもべ
単数sg. 複数pl.
主格 nom. ager [アゲル] agr I# [アグリー]
属格 gen. agr I# [アグリー] agr o#rum [アグロールム]
与格 dat. agr o# [アグロー] agr I#s [アグリース]
対格 acc. agr um [アグルム] agr o#s [アグロース]
奪格 abl. agr o# [アグロー] agr I#s [アグリース]
他に-ir型(例:vir)。これらは、たまたま主格だけ-usが脱落した形の変化。
つまりあたかも、puer-us, agr-usという単数主格の形であるかのような変化。
ただしagerタイプは単数主格以外すべての格(〈斜格〉と総称)でeが脱落。
puerタイプよりもagerタイプのほうが多いので注意。例として、
faber職工、lI(ber本、magister先生、minister仕える者
辞書では単数属格の形で見分けられる。puer, -erI#, m.、ager, grI#, m.
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【練習問題3】
1. 次の文中の名詞について、
 @その変化の型(名詞第1〜第5変化)、A性、B数、C格を答えよ。

(1)Agricola laborat.

(2)Regnat populus.The people rule.(Arkansas)

(3)Domine,dirige nos. Lord,direct us. (London)
*dirige: dirigo, -ere導く の命令法.

(4)Gratia gratiam parit.親切は親切を生む.

(5)Lupus non mordet lupum.狼は狼を咬まない.

(6)Medicus medicum non sanat.医者は医者を治さない.

(7)Iniuria non excusat iniuriam.不正は不正を弁護しない.
*iniuria: =injuria.

(8)otia dant vitia.無為は悪徳[過ち]を生じる.
*otia: <otium.
*dant: do,dare
*vitia: <vitium.

2. 上記の8つの文のうち最低3つを(あるいは可能なだけ)覚えよ

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ラテン語の統語法(シンタックスsyntax】)

広辞苑では「語を組み合せて句・節・文を作るときの規則(統辞法・統語法)。また、それを研究する文法論の一領域(統辞論・統語論・構文論・文論)」。
なにやらむずかしそうな用語だが、たとえば
日本語「あ、この本、私好き!」を、英語で表現しようとすると、
英語 メO, I like this book.モなどと出来るのは、英語のsyntaxを理解しているから。つまり、
@主語= I、
A(主語の人称・数に合わせて)動詞= like
B(指示形容詞this「この〜」を次の目的語の数に合わせ、先行させて)目的語= book(これで文章が締めくくられる)
といった英語独特の文章の作り方を知っている。
ある言語の文章を作るには、こうしたものを知る必要がある。
それでラテン語の作り方、いわばsyntaxをある程度知る必要がある。
難しい話はさておき、特に基本的なことがらを列挙してみる。

・文頭におく時は、頭文字を大文字にする。
・ラテン語の語順は自由。
・ただし、一般的傾向として
主語−間接目的語−直接目的語−副詞−動詞
あなたは−彼に−知識を−正しく−教える
Tu se scientiam recte doces.
・前置詞は当然名詞の前に来るのが原則。
・しかし名詞を修飾する語は(名詞の)後。
・なお、ラテン語は〈冠詞〉が無い。しかし、指示代名詞・指示形容詞、あるいは不定代名詞・不定形容詞(→後述)が、現代語の冠詞に似た役割をするので、代わりにこれらの使い方と変化を覚えることにしよう。

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 5. 第3変化名詞
  5-1.第3変化名詞の概要
(1) 第3変化名詞をマスターするのは、ちょっとややこしい。
結局は、(基本的には)一語ずつ個別に覚えるしかないと考えよ。
第3変化名詞の絶対的特徴としては、
単数・属格(sg.gen.): -is (→2-1(2))
(2) なぜややこしいのか。
@第1変化(-a)、第2変化(-us,-um,-er)のような単数主格sg.nom.語尾の一定の特徴というものが無い。
A専らどの性に偏っているという特徴も無い。男性・女性・中性それぞれ有。
B変化の仕方([単数属格sg.gen.以後=斜格]の〜)が、単数主格sg.nom.とは異なる単純に判断できないような語幹に、語尾がつくものが多い。
→単数主格sg.nom.を基にするだけで変化できるとは必ずしもいえない。
C変化の仕方・変化語尾そのものが、一定せず微妙に異なる場合がある。
  性も一定の傾向無し、バラバラ。
(3) しかし、二つに類型化できる。各々の特徴を把握することで、ある程度、効率良く覚えるためのコツを得られる。
  5-2.第3変化名詞の2つの型・その判別法
(1)第3変化名詞の2つの型
第3変化名詞は複数属格 pl.gen.語尾から二つに大きく分類できる。
i 幹型 =([語幹末= i ]-um)型 複数・属格(pl.gen.)が -iumとなる。
子音幹型 =([語幹末=子音]-um)型 複数・属格(pl.gen.)が - umとなる。
(2) 第3変化名詞の2つの型の特徴
i 幹-iumは変化の仕方が比較的規則的。しかし少数で例外的。
子音幹- umは変化の仕方が比較的不規則的。しかも多数。→要・努力!
(3) 第3変化名詞の2つの型の判別法
i 幹-ium型と子音幹- um型の違いはpl.gen.
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…しかし辞書には(pl.gen.)は表示されていない→どう判別したらよい?
※辞書に示されている@[sg.nom.]A[sg.gen.]のそれぞれの音節数が、
同じ (parisyllabic) → i 幹型 = ium 型
違う(imparisyllabic) →子音幹型 = um 型
※ただし、音節数による判別は絶対的なものではない。
文法書によっては、第3変化名詞をかなり細かく分類して説明するものがある。
その結果、〈例外〉がほとんどそれら分類ごとにたくさん出て来る。音韻学や文法上の理屈から“専門家”が解説した結果なのであろうけど、これでは例外の意味がわからなくなるし、したがって分類も何のための分類であるのかがわからなくなる。
しかしこのラテン語基礎文法では、ここでの〈分類〉の目的は、変化形を覚えるためであるので(ラテン語文法の専門家になるわけではないので)、筆者なりのまとめ方をしていく。
しかしその結果、〈この条件を満たすものは、ほとんど変化形はこうなる〉式のキレイな分類は犠牲にならざるを得ないが、それはガマンしてもらう。
最も重要な点は、複数属格pl.gen.が -iumとなるのか、-umとなるのか。
ここに焦点をあてて覚えてほしい。
  5-3.第3変化名詞の変化語尾の一覧── [ -ium] 型/[ -um] 型

単数sg. 複数pl.
. m./f. n. m./f. n.
主格 nom. ム, -is, -e#s, -s ム, -e, -s, ム -e#s -ia, -a
属格 gen. -is -ium, -um
与格 dat. -I# -ibus
対格 acc. -em, -im 主格と同じ -e#s, -I#s 主格と同じ
奪格 abl. -e, -I#, -e& -ibus
 (1) 単数、複数それぞれ左右に分け、右側が中性。
[ -ium] 型と[ -um] 型の共通の変化語尾を中心にしている。
何も印が付されていないのは共通の変化語尾。
   は[ -ium] 型のみ、  は[ -um] 型のみの変化語尾。
単数主格の中の ム は、〈その他不特定の語尾〉を示す。e.g. homo,hominis
 (2) 中性名詞は複数主格が、[ -ium] 型は -ia、[ -um] 型は -aとなる。
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  5-4.第3変化名詞の変化 [ -ium] 型
格 ignis m.火 mare n.海
単数sg. 複数pl. 単数sg. 複数pl.
主格 nom. ign is ign e#s mar e mar ia
属格 gen. ign is ign ium mar is mar ium
与格 dat. ign I# ign ibus mar I# mar ibus
対格 acc. ign em ign I#s
(ign e#s) mar e mar ia
奪格 abl. ign I#
(ign e#) ign ibus mar I# mar ibus
 (1)「例外的」な -ium型だが、まず最初に覚えてほしい理由がある。
後で形容詞の〈第3変化タイプ〉を覚える時に応用する名詞変化形は、他ならぬこの -ium型だからである。
 (2) -ium型@
典型的なものは[sg.nom.][sg.gen.]の音節数が同じ(parisyllabic)タイプ(5-2)。
例:ignis, -is(上掲)、
avis,-is f. 鳥 fI#nis,-is m. 終り piscis,-is m. 魚
mensis,-is m. (暦の)月 cI#vis,-is c. 市民 hostis,-is c. 敵
fame#s,-is f. 飢え valle#s, vallis f. 谷 vulpe#s,vulpis f. キツネ
 (3) -ium型A〈男性名詞・女性名詞〉
同じ音節数parisyllabicでないにもかかわらず、-ium型のもの。
単数主格語尾が-is, -e#s以外で以下の特徴の、特に単音節の語の大部分.
・単数属格: -[子音]+[子音]+[-is] となるタイプ
・単数主格: -[子音]+s( -rs, -ns, -bs, -ps, -ks(-x)など)、-o#s
[-rs, -rtis]型
pars, partis f. 部分 ars, artis f. 術、学術 fors, fortis f. 運
mors, mortis f. 死
[-ns, -ntis]型
adulesce#ns,-centis c.若者 dens, dentis m. 歯 fons, fontis m. 泉
gens, gentis f. 部族 I#nfa#ns, I#nfa#ntis c. 赤子 mens,mentis f.精神
mo#ns, montis m. 山
[-bs, -bis]型
urbs, urbis f. 都市
[-ks(-x), -cis]型
arx, arcis f. 城塞 nox, noctis f. 夜
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・単数主格:-[長母音]+s(-e#s, -a#s, -ta#sなど)または -[長母音]+x
optima#te#s,-tium m.pl.貴族 cI#vita#s,-a#tis f. 市民権
parente#s, parentium c.pl. 両親
(以下は時に-ium型)
laus, laudis f. 称賛 fraus, fraudis f. 詐欺
それ以外の特殊な例.
nix, nivis f. 雪
nix, nivis, nivi, nivem, nive/ nive#s, nivium, nivibus, nive#s, nivibus
 (4) -ium型B〈中性名詞〉
-ium型の中性名詞は、は次のような特徴をもつ。
@複数の主格・対格(pl.nom., pl.acc)――変化語尾 -a の前に -i-がくるので、 -ia
A主格語尾が -e, -al, -arの若干の中性名詞は、sg.abl.= -i となる。
 e.g. "animal, alis n. 動物", "conclave, is n. 部屋",
"exemplar, aris n. 写し,例、模範", "mare, maris n. 海",
※正確には-al, -arは主格語尾ではなく語基の末尾と考えるべき
 例外的な変化
o&s, o&ssis n.骨
o&s, o&ssis, o&ssI#, o&s, o&sse / o&ssa, o&ssium, o&ssibus, o&ssa, o&ssibus
 (5) i幹(-ium)型は本来は、どの格にも[語幹末=i]をもっていたと思われるが、
実際には-um型の影響か、部分的に-iが現れるものがほとんどである。
以下は本来の形に近く[-i-]がどの格(pl.nom.= -es以外)にも現れる例外。
@次の女性名詞
"basis,-is f. 土台", acc.=basim, abl.=basi
"sitis,-is f. 渇き、乾燥", acc.=sitim, abl.=siti
"vis,-is f. 力", (sg.)= vis, vis, vi, vim, vi ;
(pl.)= vires, virium, viribus, viris, viribus
A(参考まで)主格 -is で終わる〈町〉〈河〉の名称
Neapolisナポリ acc.=Neapolim, abl.=Neapoli
Tamesisテームズ川 acc.=Tamesim, abl.=Tamesi
B以下の女性名詞は、acc.= -im, abl.= -i の形もありえる。
navis, -is f. 船 turris,-is f. 塔 febris, is f. 熱 clavis, is f. 錠
classis, is f. 組、艦隊
C以下の女性名詞は、acc.= -em, abl.= -i の形をとる例。
ignis, is m. 火 imber, bris m. 雨 venter, tris m. 腹 avis, is f. 鳥
 (6) i幹(-ium)型は、主格=対格となる中性名詞と、男性・女性名詞で大別。
  5-5.第3変化名詞の変化 [子音 幹 = um] 型
30

格 re#x m. 王 corpus n. からだ
単数sg. 複数pl. 単数sg. 複数pl.
主格 nom. re#x re#g e#s corp us corpor a
属格 gen. re#g is re#g um corpor is corpor um
与格 dat. re#g I# re#g ibus corpor I# corpor ibus
対格 acc. re#g em re#g e#s corp us corpor a
奪格 abl. re#g e re#g ibus corpor e corpor ibus
 (1)「最も多い」-um型だが、これが最も手ごわいといえるだろう。
たとえ〈第3変化名詞である〉と判っても、単数主格sg.nom.の語形を見ただけでは、属格以降(=斜格)の変化形を導き出せるわけではない。もちろん、第一変化名詞をはじめとして他の変化パターンでもそうだが、辞書の見出し(単数主格[sg.nom.])と第2項目(単数属格[sg.gen.])の語形が判れば変化形を求めることができる。これらを対で覚えるよう努力必要。
このタイプの名詞がややこしいのは、第3変化名詞であるというだけで機械的に語尾を入れ換えれば必ず正確にどの変化形も導き出せるわけでない点。それで、ともかく慣れるしかない、ということになるのだ。
しかし、多くの例を学んで語形とパターンを覚えてほしい、という意味。
以下、いくつかのパターンに分類したものを示す。
 (2) -um型@──〈男性名詞・女性名詞〉単数主格語尾-s
@ -x, -c is(-g is)
dux,duc-is m. 指導者 pa#x, pac-is f. 平和 vo#x, vo#c-is f. 声
lu#x, lu#c-is f. 光 crux, cruc-is f. 十字架 le#x, le#g-is f. 法律
A -bs, -b is -ps, -p is
princeps, -ncipis f.元首
 (3) -um型A──単数主格:-[長母音]+s(-e#s, -a#s, -ta#sなど)または -[長母音]+x
aeta#s, aetatis f. 年齢 pe#s, pedis m. 足 cI#vita#s,-atis f.国家
ju#s,ju#ris n. 正義
 (4) -um型B──単数主格語尾が特定の形をもたないもの
cor, cordis n. 心 flo#s,flo#ris m. 花 leo#,leo#nis m. 獅子
victor,victoris m.勝利者 mater,matris f. 母 ima#go,-ginis f. 像
na#tio#,natio#nis f. 国
 (5) -um型B──その他の中性名詞
caput, capitis n. 頭 genus,generis n. 種 no#men,nominis n.名 poe#ma,-atis n. 詩 corpus,corporis n. 身体
 (6) -um型なのに、[sg.nom.][sg.gen.]の音節数が同じ(parisyllabic)のものがあるので注意。例:pater,patris(paterisの-e-が脱落)
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 6. 前置詞について
(1) 前置詞はすべて、対格支配か奪格支配(または両方)のどれか。
→「前置詞をある語と共に使おうとすると、その前置詞によって必ずその語を対格にするか奪格にするかの拘束力(支配力)をもっている」という意味。
(2) 前置詞それ自体は変化しない。
(3) 前置詞が、 形容詞+名詞 を支配するとき、形容詞+前置詞+名詞の語順になることが多い(特にcum の場合に)。
(4) 一般に前置詞+代名詞となる。cum+人称代名詞=[人称代名詞-cum]
e.g.m芯um, t芯um, s芯um, n冀敗cum, v冀敗cum
(5) しかし前置詞cumが関係代名詞を支配するとき、後置付加されることがある。e.g. quocum (= cum quo)
(6) 対格支配のみの前置詞 c.acc.(おもなもの)
ad
adversus
ante (c.f. post)
apud
circum/circa
cis/citra
contra
erga
extra (c.f. intra)
infra
inter
intra (c.f. extra)
juxtra
ob
per
post (c.f. ante)
praeter
prope/propter
secundum
supra
trans
ultra
〜の方へ/〜の近くへ/〜に
〜に対して/〜に向かって
〜の前に(で)/〜以前に
〜のもとで/〜の間で
〜の周りに/〜のころに
〜のこちら側に
〜に反して
〜のために/〜に対して
〜の外側へ
〜の下に
〜の間に
〜の内側に(へ)
〜の近くに/〜に接して
〜の前に /〜のために(原因)
〜を通じて/〜の間
〜の後に
〜の側を通って/〜を除いて
〜の近くで/〜のすぐ側で
〜に従って/〜に次いで
〜の上に(へ)
〜を越えて/〜をよぎって
〜の彼方に

32

(7) 奪格支配のみの前置詞 c.abl.(おもなもの)
a(母音以外) / ab
cum
coam
de
ex / e(子音の前)
prae
pro
sine
〜から/〜より(c.f. de)
〜と共に/〜をもって
〜の面前で
〜から(下へ)/〜について
  (c.f. ab 〜から離れて)
  (c.f. ex [内]から外へ)
〜から/〜[の内]から外へ
〜の前に/〜のゆえに
〜の前に/〜のために
〜に対して/〜として
〜なしに

(8) 対格支配/奪格支配の前置詞 c.acc./c.abl.
    対格支配c.acc.
    (運動)
    奪格支配c.abl.
    (静止)
    In
    sub
    super
〜の中(上)へ
/〜へ向かって
  (c.f. ex)
〜の下へ
〜の上へ/
/〜を越えて
〜の中(上)で(に)
〜の下で(に)
〜について
(9) ここに掲げた意味は基本的なものであり、個々の前置詞の用法と意味については辞書で確認すること。
33

【練習問題】
1. 次の第3変化名詞について、単数・複数それぞれの格変化を書け
 @ fI#nis,-is m. 終り valle#s, vallis f.
 A pars, partis f. 部分 ars, artis f. 術、学術 fors, fortis f.
   mors, mortis f.
 B dens, dentis m. 歯 fons, fontis m. 泉 gens, gentis f.部族
   mens,mentis f.精神 mo#ns, montis m.
 C nox, noctis f.
 D dux,duc-is m.指導者 pa#x, pac-is f. 平和 vo#x, vo#c-is f.
   lu#x, lu#c-is f.
 E pe#s, pedis m. 足 cI#vita#s,-atis f.国家 ju#s,ju#ris n. 正義
 F cor, cordis n. 心 flo#s,flo#ris m. 花 mater,matris f.
   ima#go,-ginis f. 像 na#tio#,natio#nis f.
 G genus,generis n. 種 no#men,nominis n. corpus,corporis n.

2. 次の文(または語)を文法的に分析して訳せ
 @ fortuna favet fortibus.
 A ab urbe condita
 B Virtute et armis.メBy valor and arms.モ(Mississippi)
 C Ense petit placidam sub libertate quietem.
メBy the sword she seeks peace under liberty.モ(Massachusetts)
 D Veritas. Truth.(Harvard University)
 E Mors certa, hora incerta.
 F Homo homini lupus.
 G Inter arma silent Musae.
 H Fortuna divitias auferre potest, non animum.
 I Vulgus amicitias utilitate probat.

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 7. 属格の用法について
属格は他の語に掛かって意味を限定する。
それ以外では、ある動詞・ある形容詞は、補語として属格を要求する。
 7-1.所有・所属を示す属格
imago amici友人の像(友人の所有する〜、他ならぬ友人の〜)
 7-2.説明(同格関係)・性質を示す属格
同格の関係(A=B)したがって説明を表現する場合がある。
verbum amicitiae友情の言葉→友情という言葉
同じく性質を示す場合がある。
 7-3.目的(語)を示す属格
動作や感情を表す(意味上、対応する動詞が考えられるような)名詞に属格名詞が掛かる場合には、目的語を示すことがある。
amor amici(たとえば、私の)友人の愛
→私が友人を愛するところの愛→友人への愛
 7-4.主語を示す属格
上記と同様に動作や感情を表す名詞に属格名詞が掛かる場合には、主語を示すことがある。
cura serviしもべの配慮
→しもべがするところの配慮→しもべのする配慮
 7-5.補語として属格を要求する形容詞
充満-欠乏、関知-無関心、欲望、力などの概念をもつ形容詞
cupidus(〜を欲する・・・), avidus(〜を熱望する・・・), plenus(〜に満ちている・・・)
experitus(〜を経験している・・・), peritus(〜に熟達した・・・), memor(〜を記憶している・・・), conscius(〜を知っている・・・), prudens(〜を弁えている・・・), potens(〜に力ある・・・), dives(〜に富んだ・・・), pauper(〜に乏しい・・・)
Homo avidus est pecuniae.人は金をほしがっている。
 7-6.属格を要求する動詞
デポネンティア動詞(→後述)の中には、本来目的語(対格)を要求するところを属格を要求するものがある。
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 8. 与格の用法について
与格は一般的に間接目的語「〜に」を示す。
また利害・目的「〜のために」「〜にとって」を示す。
それ以外:ある動詞・ある形容詞が、与格を補語として要求する。
 8. 与格の用法について
与格は一般的に間接目的語「〜に」、利害・目的「〜のために」「〜にとって」を示す。他にある動詞・ある形容詞が、与格を補語として要求する。
 8-1.与格それ自体の一般的な用法
(1)間接目的語を示す。
Femina seni sedem dat. 女性は老人に席を譲る.
senex,senis, com. 変化に注意.do,dare活用に注意.
※ただし動詞によっては与格ではなく対格をとるものがあるので注意。
Natura homines multas docet. 自然は人間に多くを教える。vinco,ere等.
(2)利害・目的「〜のために」、判断者「〜にとって」を示す。
Non scholae, sed vitae discimus. 学校のためにではなく人生のために学ぶ.
Liber bonus est discipuris. 本は学生にとって良いものだ.
※この意味から派生して共感・関心をもつ者をも示す。
※利害「〜として」の意味の与格と共に二重に与格をとることもある.
Cicero urbi est praesidio. キケロは市のために、保護として役立つ.
 8-2.sum動詞とともに用い所有者を示す
Fratri est canis. 兄は犬を持っている(兄には犬がある)。
 8-3.与格支配の動詞
(1)複合動詞(特にad-,in-,ob-,sub-)は与格支配(動作を被る対象)
adest < adsum (ad+sum)「〜にある/いる、〜に味方する」
convenit < convenio (cum+venio)「〜に合う、似合う」
(2)ある動詞は与格支配(利害、好し悪し、信・不信、服従・抵抗)
impero,are〜を命じる、placeo,e#re〜を好む、noceo,e#re〜を害する、
faveo,e#re〜をひいきする、studeo,e#re〜を志す、pa#reo,e#re〜に服従する、
cre#do,ere〜を信じる、parco,ere〜を赦す、resisto,ere〜に反抗する
 8-4.与格支配の形容詞(利害、好し悪し、適・不適、近親疎遠)
u#tilis, in-u#tilis〜に役立つ/無用、amI#cus, in-amI#cus〜に親しい/敵対の、
similis, dis-similis〜に似て/似ずに、amI#cus, in-amI#cus〜に親しい/敵の、
fI#dus, in-fI#dus〜に忠実な/不忠実な、no#tus, ig-no#tus〜に知られた/未知の、
aequus, in-I#quus〜に公平な/不公平な、pa#r, im-pa#r〜に等しい/等しくない、
opportu#nus〜に適当な、gra#tus〜に有難い、familia#ris〜に親しい、
(※形容詞は単数・男性・主格の形を代表として示した)
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 9. 第4変化名詞
  9-1.第4変化名詞の変化
格 fructus m.果実 cornu# n.角
単数sg. 複数pl. 単数sg. 複数pl.
主格 nom. fru#ct us fru#ct u#s corn u# corn ua
属格 gen. fru#ct u#s fru#ct uum corn corn uum
与格 dat. fru#ct uI# (-u#) fru#ct ibus corn u# corn ibus
対格 acc. fru#ct um fru#ct u#s corn u# corn ua
奪格 abl. fru#ct u# fru#ct ibus corn u# corn ibus
  9-2.第4変化名詞の概要
 (1) 単数・属格(sg.gen.): -us (→2-1(2))
 (2) ほとんど男性名詞(単数主格 -us)。中性名詞(単数主格 -u)若干.
 (3) 変化の特徴は、-u(語幹末)。第3変化と比較せよ。
 (4) 中性名詞は他にgenu#, u#s膝、pecu#, u#s家畜、veru#, u#s鉄串。
 (5) 女性名詞は例外的にacus, u#s針、domus, u#s家、manus, u#s手など有り。
 10. 第5変化名詞
 10-1.第5変化名詞の変化
格 die#s m. 日 re#s f. 物
単数sg. 複数pl. 単数sg. 複数pl.
主格 nom. di e#s di e#s r e#s r e#s
属格 gen. di eI# di e#rum r eI# r e#rum
与格 dat. di eI# di e#bus r eI# r e#bus
対格 acc. di em di e#s r em r e#s
奪格 abl. di e# di e#bus r e# r e#bus
 10-1.第5変化名詞の概要
 (1) 単数・属格(sg.gen.): -eI# (→2-1(2))
 (2) 全部女性名詞(単数主格 -e#s)。例外は上記die#s, eI# m. 日
 (3) 第5変化名詞の変化の特徴は、-e#(語幹末)。第3変化と比較せよ。
 (4) 全ての格の変化形をもつのは、上記の二つのみ。
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IV 形容詞
 
 1. ラテン語の形容詞とは
  1-1.基本的な文法的意味・用法
 形容詞は、名詞など(名詞類)を形容する。つまり名詞類が意味する内容をより詳しく説明し、意味を限定する。例: dominus bonus良い主人
いろいろなdominusが考えられるが、そのうちの「良い」主人を表わす。
 名詞類を限定するので、名詞類に依存している。つまり単独で用いず、名詞類の文法的性格(性・数・格)に合わせる(1-2)。
 しかし名詞的用法、つまり単独で名詞のように扱う場合もある。
例: bonus良い男 bonusは男性・単数・主格(2-1参照)。
例: bonum善 抽象名詞としては中性形(単数)
  1-2.文法的性格
 形容詞は形容される名詞の性・数・格と同じ性・数・格に変化させる必要がある。名詞の文法的性格と一致させなければ、意味上でも形容することにならない。
 名詞の場合は、必ず、男性・女性・中性のいずれかの性をもつ。しかし、形容詞の場合は、どの性の名詞にも対応しなければならないので、名詞より3倍多く男・女・中の性の活用を備えている。
例:dominus bonus→ dominus [m.sg.nom.] bonus [m.sg.nom.]
femina bona→ femina [f.sg.nom.] bona [f.sg.nom.]
  1-3.変化形のタイプ
 大きく分けて〈第1・第2変化形容詞〉と〈第3変化形容詞〉の二つある。各々「名詞の第1変化・第2変化」「名詞の第3変化」の変化の仕方をする。
→したがって、名詞の第1・第2・第3変化の3パターンは、形容詞を攻略するためにも、どうしても覚えねばならないのだ!
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 2. 形容詞の変化
  2-1.〈第1・第2変化形容詞〉の変化表
格 bonus, bona, bonum 良い...
数→ 単数sg. 複数pl.
性→ 男m. 女f. 中n. 男m. 女f. 中n.
主格nom. bon u#s bon a bon um bon I# bon ae bon a
属格 gen. bon I# bon ae bon I# bon o#rum bon a#rum bon o#rum
与格 dat. bon o# bon ae bon o# bon I#s bon I#s bon I#s
対格 acc. bon um bon am bon um bon o#s bon a#s bon a
奪格 abl. bon o# bon a# bon o# bon I#s bon ae bon I#s
呼格 voc. 男性(単数sg.)bon e
  2-2.〈第1・第2変化形容詞〉-us, -a, -um
 女性形(つまり形容される相手の名詞類が女性)の場合に名詞第1変化、男性形・中性形(つまり相手が男性名詞あるいは中性名詞)の場合に名詞第2変化の仕方をする。
 辞書の見出しでは、単数・主格の男性形で代表し、同じく女性形、中性形の語尾を表示している。例:bonus, a, um
 例外的な変化形も、名詞変化に従う。
(1) 呼格 男性・単数は -e
(2) -er型 男性・単数が -erで終るタイプ。例として、
lI#ber, lI#bera, lI#berum 「自由な」 puer,pueri,..型
miser, misera, miserum 「あわれな」 puer,pueri,..型
niger, nigra, nigrum 「黒い」 ager,agri,..型
sacer, sacra, sacrum 「聖なる」 ager,agri,..型
pulcher, pulcra, pulcrum「美しい」 ager,agri,..型
  2-3 性・数・格の一致
 いうまでもなく、性・数・格の一致であり、語尾の一致ではない。
filius liber / filium liberum
mater bona / matrem bonam
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  2-4.〈第3変化形容詞〉の変化表

A.中性形-eのタイプ
格 sua#vis, sua#ve 「やさしい...、甘美な...」
数→ 単数sg. 複数pl.
性→ 男m./女f. 中n. 男m./女f. 中n.
主格nom. sua#v is sua#v e sua#v e#s sua#v ia
属格 gen. sua#v is sua#v is sua#v ium sua#v ium
与格 dat. sua#v I# sua#v I# sua#v ibus sua#v ibus
対格 acc. sua#v em sua#v e sua#v e#s sua#v ia
奪格 abl. sua#v I# sua#v I# sua#v ibus sua#v ibus
ただし、単数sg.主格nom . で、男m.のみ -erとなるものが若干ある。
例:acer, acris, acre(『はじめての』91頁変化表参照)

B.[男・女・中]共通のタイプ
格 pru#de#ns, pru#de#ntis 「賢い...、注意深い...」
数→ 単数sg. 複数pl.
性→ 男m./女f. 中n. 男m./女f. 中n.
主格nom. pru#de#n s pru#de#n t e pru#de#n t e#s pru#de#n t ia
属格 gen. pru#de#n t is pru#de#n t is pru#de#n t ium pru#de#n t ium
与格 dat. pru#de#n t I# pru#de#n t I# pru#de#n t ibus pru#de#n t ibus
対格 acc. pru#de#n t em pru#de#n t e pru#de#n t e#s pru#de#n t ia
奪格 abl. pru#de#n t I# pru#de#n t I# pru#de#n t ibus pru#de#n t ibus
ただし―― (1) 単数sg. 奪格 abl. -I#で、名詞的用法では -eとなる。
a vir prudenti 賢い男によって
a prudente 賢さによって
(2) 複数pl. 属格 gen. -iumは、ときに -umとなる。
  2-5.〈第3変化形容詞〉中性-e型
辞書では、ほとんどの場合、@[男m./女f.] = -is、A[中n.]= -e、と表記。
ただし、単数主格の男性形が -erのタイプ(例:acer)は、
@[男m.] = -er、A[女f.]= -is、B[中n.]= -e、と表記する。
頻出するomnis,-e「すべての」の変化の例(『はじめての』89頁)で学べ。
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  2-6.〈第3変化形容詞〉[男・女・中]共通のタイプ
 辞書では、@[男m./女f./中n.―単数主格]、A[男m./女f./中n.―単数属格]、と表記する。属格以降の変化語尾の付き方を知るために、Aが必要である。
 [男・女・中]共通というのは、[男m./女f./中n.―単数主格]共通、という意味である。当然、中性形では主格=対格で、[男m./女f.]とは変化形が異なる。
 代表的なprudens, entisの変化は、後に現在分詞の変化に応用する。
 その他の例としてfelix,-cis「幸いな」。
 2-4変化表に付記したように、
(1) 単数sg. 奪格 abl. -I#で、名詞的用法では -eとなる。
a vir prudenti 賢い男によって
a prudente 賢さによって
(2) 複数pl. 属格 gen. -iumは、ときに -umとなる。
(3) 複数pl. 主格 nom. -iaは、ときに -aとなる。
vetus, teris「古い」は、pl.nom.中性形はvetera、pl.gen.でveterumとなる。
 この他の不規則な変化の例として、
dives, divitis「富んだ」は、pl.nom./acc.中性形でditiaと-vi-を欠く。
pauper, eris「貧しい」など、中性形を欠く形容詞もある。
 3. 形容詞の用法
  3-1.補語として属格/与格を取る形容詞
 補語として属格/与格を取る形容詞がある。
「V名詞の基礎」7「属格」8「与格」参照。
  3-2.形容詞と代名詞
 後述するように、代名詞のあるものは、形容詞として機能する。
 すでに述べたように、形容詞はそれ自体で名詞的に機能する。
 代名詞の多くは、〈代名詞型〉の変化をする。これは形容詞変化と比較して、属格と与格が不規則に変化する。
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 4. 副詞
ラテン語の副詞の多くは形容詞から作られる。
「悪い〜」bad→「悪く〜(する)」badly
  4-1.第1・第2型形容詞(-us,-a,um)から作られる副詞
男性・単数・主格以外の形(m.sg.gen)の語尾を除き(語幹)-eに変える
carus, a, um (語幹 car-)親しい→care親しく
miser, a, um (語幹 miser)不幸な→misere不幸にも
pulcher, a, um (語幹 pulchr)きれいな→pulchre不幸にも
  4-2.第3型形容詞から作られる副詞
語幹に-iter,あるいは-terを加える
acer, acris, acre (語幹acr-)厳しい→acriter
audax(語幹audac-)大胆な→audacter
-ensで終わる形容詞は語幹に-erのみ
sapiens (語幹sapient-)賢い→sapienter
  4-3.その他の副詞
形容詞に依存せずもとから副詞としてあるもの
  nunc,tunc,jam,semper,など
その他、変則的に作られるものがあるが個別に覚えよ
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【練習問題5】
1. 次の文を訳せ。(文法的に解析せよ)
 @ Servi dominum laudant.
 A Domine, regina servos laudat.
 B Equi dominorum servos delectant.
 C Venti equos non terrent.
 D Equiti rex bonus equum dat.    eques,itis m. 騎兵trooper
 E cicada cicadae cara,formicae formica.
 F Dominus illuminatio mea.Oxford University
 G Mens et manus.Massachussetts Institute of Techunology
 H ad astra per aspera.
 I Non scholae sed vitae discimus.(Seneca)
 J Exemplis discimus.(Phaedrus)
 K Homo est animal sociale. (Seneca)
 L Avaritia omnes homines caecos reddit.(Cicero)
 M Imago animi vultus est, indices oculi. (Cicero)
 N Hominum natura novitatis avida est.(Plinius Minor)
 O Magna est vis consuetudinis. (Cicero)
 P Otium omnia vitia parit.
 Q Verba volant, scripta manent.
 R Puras deus non Plenas aspicit manus. (Plinius Minor)
 S Stulti timet fortunam sapientes ferunt.
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」 代名詞
 1. ラテン語の代名詞
  1-1 代名詞の概要
 代名詞は、その名のとおり名詞に代わるものとして機能する。
 代名詞は、基本的に本体を指し示すので、下表のような種類の代名詞がある。
 代名詞の多くは形容詞としても機能する。
例: Hic vir est bonus. 「この男は良い。」
Hic est bonus. 「これ(彼)は良い。」
  1-2 種類
(1) @人称代名詞・再帰代名詞・所有代名詞(所有形容詞)
(2) A指示代名詞(指示形容詞)
B不定代名詞(不定形容詞)・強意代名詞
C関係代名詞(関係形容詞)・不定関係代名詞
D疑問代名詞(疑問形容詞)
 代名詞は変化形のタイプから、
名詞変化に似た変化をする人称代名詞を代表とするグループ(1)、
典型的な〈代名詞的変化〉をするグループ(2)に分かれる。
 〈代名詞的変化〉は、後述の指示代名詞の箇所で代表的なものを覚える。
 主な種類として5つ数える。
 下表の概念図では、指示代名詞は人称代名詞に近いことが分かる。
 実際、人称代名詞に3人称は無いが指示代名詞に同様の働きをさせる。
  □代名詞の「種類」「変化の傾向」および概念図
上記の説明を表にまとめた。大きくボールド(太字)で示した種類は、同名の形容詞もあることを表す。
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(1)
名詞的
変化 @ 人称代名詞
[本人そのものの代わり] 所有代名詞
再帰代名詞
(2)
代名詞的
変化 A 指示代名詞
[本体そのものの代わり]
・強意代名詞 B 不定代名詞
[本体そのものの代わり]
・強意代名詞
C 関係代名詞
[本体についての説明を受けたもの] D 疑問代名詞
[不明なまま本体の説明を受けて疑問]
 2. 人称代名詞・再帰代名詞(および所有代名詞(所有形容詞))
  2-1 人称代名詞・再帰代名詞
(1)人称代名詞・再帰代名詞の変化
人称代名詞 再帰代名詞
人称→ 1人称 2人称 3人称
数→ 単数sg. 単数sg. 単数sg. 複数pl. 単数sg./複数pl.
主格nom. ego no#s tu# vo#s ――
属格 gen. meI# nostrI#
(nostrum) tuI# vestrI#
(vestrum) suI#
与格 dat. mihi nobI#s tibi vobI#s sibi
対格 acc. me# no#s te# vo#s se#
奪格 abl. me## nobI#s te## vobI#s se##
※この変化表は、人称代名詞(1人称・2人称)と、再帰代名詞との変化表である。
(2)人称代名詞の概観
 人称代名詞3人称は指示代名詞is稙a稱d→3-1または ille稱lla稱llud→3-4で補う(→指示代名詞)。
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 人称代名詞の所有の意味では→2-2所有代名詞・所有形容詞、を使う。
 人称代名詞の属格(語尾-I#)は、属格支配の動詞・形容詞の補語として文法上属格が求められる場合に使う。例:p.55注意(1)
 1人称・2人称複数nostrum, vestrumは「…の中の」〈部分属格〉を示す。例:p.55注意(2)
(3)再帰代名詞の概観
再帰代名詞(「○○○(主語)自身の・に・をによって」)は、同じ文中で主語自身を指し(「再帰的」)主語の代わりとして用いる。
したがって主格(→主語)は無い。
1人称・2人称は、人称代名詞と同じ。
  2-2 所有代名詞・所有形容詞
(1)所有代名詞・所有形容詞の変化
所有代名詞・所有形容詞
人称→ 1人称 2人称 3人称
数→ 単数sg. 単数sg. 単数sg. 複数pl. 単数sg.
/複数pl.
主格nom. meus,-a,-um noster,-tra,trum tuus,-a,-um vester,-tra,trum suus,-a,-um
※主格のみ、斜格は省略。変化は第1・第2型。
同じ「私の〜」でも、「〜」の性・数・格によって変化の仕方が異なる。
meus calamus (sg.nom.m.)/mea felicitas (sg.nom.f.)/meum secretum (sg.nom.n.)...
(2) 所有代名詞・所有形容詞の概観
・人称代名詞(1人称、2人称)の属格/〈所有〉代名詞形容詞
前述のように人称代名詞(1人称、2人称)の属格は、文法上属格が求められる場合に用いられるのであって〈所有〉の意味は無い。〈所有〉の意味は所有代名詞・所有形容詞によって表現される。性・数・格に注意。
・3人称の属格=〈所有〉
ただし人称代名詞ではない指示代名詞is,ea,id→3-1あるいはille,illa,illud→
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3-4の属格は、〈所有〉の意味をもっている。したがってこれらを3人称代名詞の代わりに用いる場合は、それぞれの属格によって所有の意味「彼(彼女/それ)の〜」を表わすことができる。)
・指示代名詞の属格と所有代名詞3人称(再帰代名詞)との違い
前述のように「彼(彼女/それ)の〜」と訳せる場合でも、
指示代名詞の属格ejus /eotum,earum,eorumで表わす場合と、
所有代名詞3人称(再帰代名詞)suus,sua,suumで表わす場合とでは意味が異なる。
cornelia filium suum laudat.
コルネリアは自分の(コルネリア自身の)息子をほめる。
cornelia filium ejus laudat.
コルネリアは彼(彼女/それ)の(主語コルネリア以外の誰かの)息子をほめる。
(当然ejusはgen.でfiliumに掛かり、suumはfiliumの性数格により対格)
 3. 指示代名詞・所有形容詞
  3-1 is, ea, idの変化
格 is, ea, id
数→ 単数sg. 複数pl.
性→ 男m. 女f. 中n. 男m. 女f. 中n.
主格nom. is ea id eI# (iI#, I#) eae ea
属格 gen. e#jus e#jus e#jus eo#rum ea#rum eo#rum
与格 dat. eI# eI# eI# eI#s(iI#s,I#s) eI#s(iI#s,I#s) eI#s(iI#s,I#s)
対格 acc. eum eam id eo#s ea#s ea
奪格 abl. eo# ea# eo# eI#s(iI#s,I#s) eI#s(iI#s,I#s) eI#s(iI#s,I#s)
(a)意味
既に話題になったもの、既に知られているものを指すが指示性は弱い。
属格に再帰的意味ではないので注意(2-2(2)およびテキストpp.56-57注意(2))。
関係代名詞の先行詞として用いられる。
(b)変化
名詞の変化形に似ているが、変化は、典型的な〈代名詞形〉変化と言える。
複数形で異形がある。他の指示代名詞/形容詞との違いはi- (e-)。
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  3-2  hic, heac, hoc  [h-c]
格 hic, heac, hoc これ(代名)/この…(形容)
数→ 単数sg. 複数pl.
性→ 男m. 女f. 中n. 男m. 女f. 中n.
主格nom. hic heac hoc hI# hae heac
属格 gen. hu#jus hu#jus hu#jus ho#rum ha#rum ho#rum
与格 dat. huI#c huI#c huI#c # hI#s hI#s hI#s
対格 acc. hunc hanc hoc ho#s ha#s ho#s
奪格 abl. ho#c ha#c ho#c hI#s hI#s hI#s
(a)意味:話者のそば近く(空間的・心理的)にあるものを指す。
(b)変化:hic, heac, hocの特徴[h-c]以外の部分に注目すればis, ea, idと共通項が少しみえる。[-c]は指示を元来意味し、部分的にこの変化形に残った。
  3-3 iste, ista, istud  [ist-]
格 iste, ista, istud それ(代名)/その…(形容)
数→ 単数sg. 複数pl.
性→ 男m. 女f. 中n. 男m. 女f. 中n.
主格nom. iste ista istud istI# istae ista
属格 gen. istI#us istI#us istI#us isto#rum ista#rum isto#rum
与格 dat. istI# istI# istI# istI#s istI#s istI#s
対格 acc. istum istam istum isto#s ista#s ista
奪格 abl. isto# ista# isto# istI#s istI#s istI#s
特徴的な部分は[ist-]。聞き手「あなた」に近いモノを指す。
  3-4  ille, illa, illud  [ill-]
格 is, ea, id
数→ 単数sg. 複数pl.
性→ 男m. 女f. 中n. 男m. 女f. 中n.
主格nom. ille illa illud illI# illae illa
属格 gen. illI#us illI#us illI#us illo#rum illa#rum illo#rum
与格 dat. illI# illI# illI# illI#s illI#s illI#s
対格 acc. illum illam illum illo#s illa#s illa
奪格 abl. illo# illa# illo# illI#s illI#s illI#s
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(a)意味
話し手・聞き手の両方に遠いモノを指す。ille.... , hic... は、「(その)前者は…」「(この)後者は …」を意味する。最初に述べられた前者が、心理的に「遠い」とみて、そのあと述べられた後者が、次に再述され指摘される時に心理的に「近い」とみる。
(b)変化
特徴的な部分は[ill-]。
  3-5 その他の代名詞(形容詞)
(a)指示代名詞・指示形容詞I#dem, eadem, idemの変化
 I#dem, eadem, idem  [-dem]
格 I#dem, eadem, idem「同一の(もの)/同じ…」
数→ 単数sg. 複数pl.
性→ 男m. 女f. 中n. 男m. 女f. 中n.
主格nom. idem eadem idem eI# (iI#, I#)dem eaedem eadem
属格 gen. e#jusdem e#jusdem e#jusdem eo#rundem ea#rundem eo#rumdem
与格 dat. eI#dem eI#dem eI#dem eI#s(iI#s,I#s)dem eI#s(iI#s,I#s)dem eI#s(iI#s,I#s)dem
対格 acc. eundem eandem idem eo#sdem ea#sdem eadem
奪格 abl. eo#dem ea#dem eo#dem eI#s(iI#s,I#s)dem eI#s(iI#s,I#s)dem eI#s(iI#s,I#s)dem
(a)意味:
異なるものではなく同一である、同じであるの意味。
例(新ラ、194):Filio et filiae est idem magister.
息子と娘(に)は、同じ教師がついている。
(b)変化
これらの特徴となっている[-dem]は「同じ」を意味する。
一部の変化に注意する必要があるが、[is,ea,id]+[-dem]の形になっている。
49

(2)強意代名詞・強意形容詞の変化
 ipse, ipsa, ipsum  [ips-]
格 ipse, ipsa, ipsum「それ自身/それ自身の…」
数→ 単数sg. 複数pl.
性→ 男m. 女f. 中n. 男m. 女f. 中n.
主格nom. ipse ipsa ipsum ipsI## ipsae ipsa
属格 gen. ipsI##us ipsI##us ipsI##us ipso#rum ipsa#rum ipso#rum
与格 dat. ipsI## ipsI## ipsI## ipsI###s ipsI###s ipsI###s
対格 acc. ipsum ipsam ipsum ipso###s ipsa###s ipsa
奪格 abl. ipso# ipsa# ipso# ipsI###s ipsI###s ipsI###s
(a)意味
他の名詞・代名詞を受けて「それ自身」「まさにそのもの」など強意を意味する。同じ意味は、[人称代名詞]+[-met]でも表現できる。
(b)変化
この変化の特徴は[ips-]。
 4. 関係代名詞/疑問代名詞・形容詞
関係代名詞qui, quae, quod「〜(する・である)ところの…」
疑問形容詞qui, quae, quod「何の〜、どの〜」
これらは同じ変化。ただし疑問形容詞にsg.m.nom.にquisの別形あり。
関係代名詞は先行詞を受けて関係文を形成する。
疑問形容詞は名詞・代名詞を文中で受ける。
疑問代名詞quis (m.f.), quid (n.)「誰…?、何…?」は疑問文を形成する。
似た変化するので注意。
意味上、関係代名詞と相関関係にある指示代名詞/疑問形容詞、関係副詞を下表にまとめた。(参考:新ラ、785)
50

(関係文における)関係代名詞・副詞
および対応する指示代名詞・疑問形容詞
〈指示詞〉
〈関係詞〉
〈疑問詞〉
指示代名詞 etc.
関係代名詞 etc.
疑問代名詞 etc.
比況

is  その人
talis  このような
tantus それほど大きな
tot  それほど多い
qui   〜ところの人
qualis  …のような
quantus …ほど大きい
quot …ほど多い
quis ...? 誰が...か?
qualis ...? どのような...か?
quantus ...? どれ程大きく...か?
quot ...? どれ程多く...か?
指示副詞
関係副詞
疑問副詞
程度
場所
基点
通過
終点
比較
頻度
ita, sic そのように
ibi そこに
inde そこから
hinc
hic,hac ここを通って
eo, huc そこへ
tam ……ほど
tum, その時に
tunc
totiens それほど度々
ut …のように
(uti)
ubi …のところに
unde …の所から
qua …の所を通って
quo …の所へ
quam …ほど
quando …の時に
quotiens …ほど 度々
quomodo...? どのように...か?
qui...?
ubi ...? どこに...か?
unde ...? どこから...か?
qua ...? どこ(を通って)...か?
quo ...? どこへ...か?
quam ...? どれほど...か?
quando ...? いつ...か?
quotiens ...? どれほど度々...か?

 5. 不定代名詞・不定形容詞
やはり同じく代名詞形の変化をするものに、以下のようなものがある。
aliquis, aliqua, aliquod「(誰か/何か)ある(人/もの)」
alter, altera, alterum「(二つのうちの)他の、もう一方の」
alius, alia, aliud「他の」
この他に、
nemo, nihil男性・女性形「誰も…ない」、中性形「何も…ない」の意味
他に否定の語nonなどがなくても、否定の意味になる。
51

 6. 代名詞的な働きをする形容詞(代名詞的変化をする)
名詞的な形容詞、およびその変化・代名詞
 m.  f.  n. 代名詞として
(名詞的用法)
ullus ulla ullum いかなる人(もの)であれ ×
代名詞:quisquam
nullus nulla nullum 誰(何)も〜でない ×
代名詞: nemo, nihil
unus una unum 一つの
solus sola solum ただ一つの
totus tota totum 全体の
alius alia aliud その他の、別の
alter altera alterum (二つのうち)もう一方の
uter utra utrum 二つのうちどちらが
neuter neutra neutrum 二つのうちどちらも〜でない
(参考:新ラ、785)松平千秋・国原吉之助『新ラテン文法』(東洋出版社1994年第3版)p.193を参考にした。
52

VI 動詞の時制・法の概観
 1. ラテン語の動詞の文法的性格(概観)
  1-1 活用する動詞
ラテン語の動詞は〈変化・活用する品詞〉の一つである。それで私たちがラテン語文法を学ぶ時に、名詞の変化、動詞の活用のパターンを暗記することは避けられない。  (変化・活用する動詞以外の品詞「名詞群」として――@名詞、A形容詞、B代名詞、C数詞、がある)
  1-2 人称・数以外の文法的要素
動詞の活用としてこれまでみてきたのは、人称・数によって語尾が変わる活用であった。すでに「動詞とその活用1.ラテン語の動詞とは1-1.動詞1語が表わすもの」(p.11)で述べたように、ラテン語の動詞一語は、その動詞が表わす動作・状態の主体(人称・数)を示すと同時に、〈時制〉〈態〉〈法〉という文法的性格も示している(「1-4.〈時制〉〈態〉〈法〉」p.12)。
これまで多く〈時制=現在〉〈態=能動態〉〈法=直説法〉を前提に、人称・数に対する変化を問題にしてきたが、他の時制、受動態、他の法(不定法、接続法)によっても動詞の語形が変化(活用)する。変化表で確認せよ。
  1-3 動詞の活用を決める5つの文法的次元
動詞にはすなわち次の5つの文法的意味次元があり、個々の動詞の語形がそれを表している。
態 能動態、受動態
法 直接法、接続法、および不定法、命令法
時制 現在、未完了過去(半過去)、完了(過去)、未来、
過去完了(大過去)、未来完了(先立未来)
人称 1人称、2人称、3人称
数 単数、複数
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 2. 動詞の法――直説法と接続法(概観)
  2-1 いくつかの文法的次元による区別
動詞を、まずどの次元で大きく区別するかは簡単ではないが、互いにどのように関連づけるかを考え合わせてみよう。
〈人称〉〈数〉による語尾変化はすでにみてきた。各々の〈時制〉においてこれらが活用する。これらの時制は直説法、接続法、不定法の各々の〈法〉によって異なる体系をもつ。もちろん、能動態と受動態の〈態〉によって、つまり動作・状態の主体が主語になる(能動態)か、対象が主語になる(受動態)かの区別は大きいものだが、語尾変化そのものは多くの場合受動態語尾に置き換えるか完了分詞を用いることによって表わすことができる。
  2-2 〈法〉による区別
こうしたなかで、特に直説法と接続法の〈法mood〉による区別が大きなものと考えていい。法とは、その動詞によって表現される動作・状態が、話者speakerによって事実としてとらえられている(直説法indicative)か、仮定も含め主観的にとらえられている(接続法conjunctive)か、話者と切り離されてとらえられている(不定法infinitive)か、という捉え方の区別(「法」mood<mode)である。この捉え方の区別は、文法的に大きな区別なのなのである。
 3. 動詞の時制――未完了と完了
  3-1 「完了」「未完了」という区別
動詞の時制は6種類ある(ただし6種すべて揃っているのは直説法のみ)。しかし、これらを二つの概念で区別しまとめることができる。それが〈未完了〉系時制か〈完了〉系時制か、という区別である。この区別は、他のおもな近代のヨーロッパ諸言語にもみられる。
  3-2 「完了」「未完了」の意味
要するに動作・状態が、「未完了」であるのか、すでに「完了」したのか、
54

という区別が、単なる[過去―現在―未来]という時間的順序の区別の他に大切な意味をもっている、という点に私たち日本人は注意を払う必要がある。
「未完了」はその動作・状態が「現実」となっていない。
「完了」は、その銅座・状態が「現実」と既になり、歴史の一部となった。
この違いの大きさは単なる時間的順序とは区別されるのだ。その違いについて少し考えてみよう。
たしかに「完了」は完了した動作・状態を示すと同時に、その結果として時間的順序の「過去」の意味も含む。これが複雑に思われるかもしれない。ギリシア語では未完了過去、(現在/過去)完了、とは別に「アオリスト(不定過去)」という時制があって、ラテン語では「完了」に統合された形になっているとみていいだろう。ラテン語文法書(和書)によっては完了perfect時制を単に「過去」時制と訳すものがあるが、時間的順序の意味に重点が傾いている。何より日本人にとって分かりづらい「完了」「未完了」の区別がつかないので避けたい。
  3-3 「完了」系/「未完了」系
6つの時制を次のように区別できる。
動詞幹 《過去》 《現在》 《未来》
「未完了」系 現在幹 未完了過去 現在 未来
「完了」系 完了幹 過去完了 完了
(現在)完了 未来完了
他の文法書にみられる別表記として、次のようなものがある。
未完了過去(半過去)、過去完了(大過去)、完了(過去)、未来完了(先立未来)
「完了」系/「未完了」系の文法的区別は動詞幹による。
  3-4 「完了」系の受動的意味
完了系の時制の二つの意味のうち、「完了」したことによって、「不可避な歴史の一部、事実とされてしまった」というニュアンスから、「完了分詞」に受動的意味が表れる。これはある場合に受動態で「完了分詞」が用いられることに示される。活用表で確認せよ。
55

 4. 動詞の概観
第二時称
第一時称
過去
現在
未来
未完了系
直説法
未完了-過去
現在
未来
接続法
未完了-過去
現在
「〜して」
「いた
/いつつあった」
「いる」
「いる
だろう」
完了系
直説法
過去完了
歴史的完了 完了
(現在での結果を
含意しない)
現在完了
(現在での結果を
含意する)
未来完了
接続法
過去完了
完了
「〜して
しまって」
「いた」
「いる」
「いる
だろう」

縦軸──「完了」「未完了」、の区別
横軸──時間的順番=過去・現在・未来、の区別
「第一時称」「第二時称」もとりあえず時間的順番とみていい。
→接続法で説明
 5. 完了系
完了系のいくつかの時制のなかの、特徴的な意味を直接法・完了で考えよう。
(1)直接法・完了時制
意味を2つに区別できる。基本的意味は「〜してしまっている」
→「(既にある動作が完了)してしまっている」という[完了]を示す。
→さらに、現時点との関係が問題になるときに二つの意味が出てくる。
56


@「その結果が現在に及んでいる」 =現在完了present perfect
↓    現時点
☆──(だから)→●
Inveni ! 私は見つけた(現時点で既に「見出している」状態)。
Dixi. 私は言った(現時点で既に「言い終えている」→現時点の主張へ)。
Vixerunt. 彼らは生き終えた(現時点で既に「死んでいる」)。
Novi.(<nosco) 私は知っている
(過去のある時点で「認識した」だから現時点で「知っている」)。
以上例文、新ラ§219より
A「その結果が現在に及んでいない」 =歴史的完了historical perfect
↓    現時点
☆     ←──○
Veni, vidi, vici来た、見た、勝った
現時点から、過去に完了した行為・状態をみて述べている
[参考まで]
物語や歴史的記述において、未完了過去と歴史的完了は対立する。一般に、
付随的な状況; 未完了過去
事件(アクション): 完了
「完了とともに物語は進み、未完了過去とともに物語は停滞する」
新ラ§221より
B完了(特殊用法)
過去の経験に基づく、普遍的真理を表明する言い方。格言的完了。詩中で。
(2)完了幹
@〈動詞幹〉〈現在幹〉〈完了幹〉について
 ここでまず最初に、〈完了幹〉を作る場合に必要な〈動詞幹〉〈現在幹〉とはどういうものか、整理しておこう。
 現在幹──amoの不定法(現在)の形ama-reから語尾-reを除いた形ama-
 動詞幹──現在幹amaから、現在幹をつくる〈つなぎの母音(幹末母音)〉(-a-)を除いた形am-
したがって現在幹=動詞幹+[幹末母音](ama- = am- a-)
という関係になっていて、動詞amoは〈動詞幹am- 〉を不変の部分とする。
57


完了幹は、〈完了形時制〉つまり完了、過去完了、未来完了の三つの時制の変化に応用するので重要。具体的には直接法・接続法・不定法での完了系の変化に用いる(ただし能動態のみ。受動態には完了分詞を用いる→後述)。
完了幹は、辞書では、動詞の基本4形の3番目[=直接法完了1単]で表示。

A〈完了幹〉の作り方(『はじめての』p.200-)
完了幹の作り方は、大きく分けてT.弱変化、U.強変化、の二つ。
弱変化は第1活用・第4活用に適用、現在幹をもとにつくることができる。
    現在幹+[-v]、
強変化は第2活用・第3活用に適用、現在幹から直接にはつくられない。強変化はおおまかに4種の作り方に分けられる。
完了幹の作り方を分類すると次のようになる。
T.弱変化:[現在幹]-v ama-re→amav-
audi-re→audiv-
U.強変化
i.(第2活用動詞の大部分)[動詞幹]-u mone-re→monu-
※弱変化と比較せよ。弱変化は[母音]-vに対しこの場合[子音]-u。
ii.(第3活用動詞の大部分)[動詞幹]-s
carpo: carp-e-re →(carp-s-) carps-
rego: reg-e-re →(reg-s-) rex-
dico: dic-e-re →(dic-s-) di#x-
scribo: scrib-e-re →(scrib-s-) scri#ps-
lu#do: lud-e-re →(lud-s-) lu#s-
mitto: mitt-e-re →(mit-s-) mi#s-
iii.(第3に多い)     [動詞幹の母音→長(例a→e#)]
emo#: em-e-re em-→e#m-
vinco#: vinc-e-re (vic-)→vi#c-
fundo#: fund-e-re (fud-)→fu#d-
ago#: ag-e-re (ag-)→e#g-
facio#: fac-e-re (fac-)→fe#c-
capio#: cap-e-re (cap-)→ce#p-
動詞幹が、現在幹から接辞の子音が脱落するものがあるので注意。
58


iv.(主に第3活用動詞で)  [畳音]+[動詞幹]cade-re→ce-cid-
動詞幹の語頭の子音を重ねて作る。[畳音]=[語頭の子音]+[母音]
語幹の母音-a-→-i-に、畳音の母音=-e-となることが多い。
curro#: curr-e-re →(curr-) cu-curr-
posco#: posc-e-re →(posc-) po-posc-
cado#: cad-e-re →(cad-) ce-cid-
cano#: can-e-re →(can-) ce-cin-
tango#: tang-e-re →(tag-) te-ting-
v. [完了幹]=[動詞幹]
5つ目の完了幹の作り方ということもいえる。まぎらわしいという点で注意。
defendo#: defend-e-re defend-
arguo#: argu-e-re argu-
B〈完了幹〉短縮形:弱変化
 vi/ve/v-[-s/-r]
となる場合に、vi/ve/v- が省略されることがある。例えば
ama#visti (2sg.)→ama#sti, ama#ve#runt (3pl.)→ama#runt
(3)完了形(直接法・能動態)
完了形=〈完了幹〉+〈完了人称語尾〉
完了形は、直接法能動態のみ、スペシャル版:〈完了人称語尾〉を使う。
〈完了人称語尾〉(『はじめての』p.206)
数 人称 完了人称語尾 amo moneo lego audio
単数 1 -i# amav i# monu i# leg i# audiv i#
2 -isti# amav isti# monu isti# leg isti# audiv isti#
3 -it amav it monu it leg it audiv it
複数 1 -imus amav imus monu imus leg imus audiv imus
2 -istis amav istis monu istis leg istis audiv istis
3 -e#runt amav e#runt monu e#runt leg e#runt audiv e#runt
3pl.では-e#runtの代わりに-e#reの別形あり.
現在人称語尾p.16と比較すると-i#が特徴的,だが丸ごと暗記を要す。
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(4)過去完了形(直接法・能動態)
過去完了形=〈完了幹〉+〈sum未完了過去〉
過去完了形は、完了幹にsum未完了過去(→p.60)を語尾とした形.
〈過去完了〉(『はじめての』p.206)
数 人称 人称語尾 amo moneo lego audio
単数 1 -eram amav eram monu eram leg eram audiv eram
2 -era#s amav era#s monu era#s leg era#s audiv era#s
3 -erat amav erat monu erat leg erat audiv erat
複数 1 -era#mus amav era#mus monu era#mus leg era#mus audiv era#mus
2 -era#tis amav era#tis monu era#tis leg era#tis audiv era#tis
3 -erant amav erant monu erant leg erant audiv erant
過去完了の意味は、「〜してしまっていた」で代表できる(→p.56参照)
「〜してしまってノ」(完了の意味)+「いた」(過去の視点)
Quando ego ad scholam perveni, magister iam pervenerat.
(5)未来完了形(直接法・能動態)
未来完了形=〈完了幹〉+〈sum未来〉
未来完了形は、完了幹にsum未来(→p.60)を語尾とした形.
〈未来完了〉(p.206)
数 人称 人称語尾 amo moneo lego audio
単数 1 -ero# amav ero# monu ero# leg ero# audiv ero#
2 -eris amav eris monu eris leg eris audiv eris
3 -erit amav erit monu erit leg erit audiv erit
複数 1 -erimus amav erimus monu erimus leg erimus audiv erimus
2 -eritis amav eritis monu eritis leg eritis audiv eritis
3 -erint amav erint monu erint leg erint audiv erint
未来完了の意味は「〜してしまっているだろう」で代表できる(→p.56参照)
「〜してしまってノ」(完了の意味)+「いるだろう」(未来の視点)
Cum pervenero Romam, longas litteras scribam.
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(6)完了形しか持たない若干の動詞
ラテン語動詞には、novi, novisseと、完了形1sg.、不定法完了が見出し語に置かれているものが若干ある。未完了系時制が欠如した動詞で、その意味する動作・行為は、ある動作の完了を前提としたものである。5(1)@参照。
語形と意味の対応は次の通り。
形 →意味
完了
novi →現在
私は知っている 私は知る[nosco]ことを完了した→「知っている」
過去完了
noveram →過去(あるいは完了)
私は知っていた
未来完了
novero →未来
私は知っているだろう
これに類するものとして、coepi, meminiなど。
(全時制を完備しない動詞=不完全動詞には他にaio,inquam「言う」等)
【練習問題6】
1. 次の文を完了時制に変えなさい。
(1)Nos verbum tuum credi.
(2)Non sum ego quod eram. (Ovidius)
(3)Nos nihil docemus sed discimus.
(4)Consules omnia statuunt et regunt.
(5)Felix est qui potest rerum cognoscere causas. (Velgilius)
【答】
(1)credidimus  (2)fueram  (3)docuimus,  didicimus
(4)statuerunt et rexerunt   (5)potuit
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 6. 分詞
6-1 分詞とは
ラテン語でparticipium [participio<pars+capio]「(形容詞の)性質を帯びる」
 ・動詞からつくられる。形容詞的性格をあわせもつ
 ・似た性格をもつものとして動詞的形容詞
6-1-1 形容詞的性格
 ・形容詞と同様、語形変化:性・数・格
 ・非人称(述語に用いられる場合には主語の性・数・格に合わせる)
 ・名詞的に用いられる場合、不定法と似た使い方
6-1-2 動詞的性格
 ・目的語、補語をとることができる
 ・主動詞に対する時間的な差異(以前・同時・以後)の意味をもつ
 ・能動的意味(現在分詞)、受動的意味(完了分詞)をもつ
6-2 分詞の種類・基本的作り方
  現在分詞 [不定法]語尾を-nsに変える
  完了分詞 [目的分詞]語尾を-us,-a,-umに変える
  未来分詞 [目的分詞]語尾を-urus,-ura,-urumに変える
6-3 現在分詞
1. [不定法]語尾を-nsに変える
(ただし第4活用および一部の第3活用は-iens)
2. 語形変化は、3性共通でsapiensと同じ。
(ただし単数奪格sg.abl.では-i。名詞的用法や後述の奪格別句で用いる場合に-eとなる)
3. 能動の意味。主動詞に対して「同時」。付帯状況、条件、理由、時を示す。
Avis pulchre cantans omnes delectat.
4. 現在分詞の欠如した動詞がある。sum(ただし後代にensが使われる)。
62


6-4 完了分詞 p.208-213
1. [目的分詞]語尾を-us,-a,-umに変える
2. 語形変化は、第1・第2型形容詞bonus,a,umと同じ。
3. 完了した受動の行為。主動詞に対して「以前」。「〜された」「〜されて」
4. 完了系の各時制受動態で使われる.
完了系(現在・過去・未来)受動態=完了分詞+sum(現在・未完了過去・未来)
・  完了受動態(1sg.)=完了分詞+sum
過去完了受動態(1sg.)=完了分詞+eram
未来完了受動態(1sg.)=完了分詞+ero
6-5 未来分詞
1. [目的分詞]語尾を-urus,-ura,-urumに変える
2. 語形変化は、第1・第2型形容詞bonus,a,umと同じ。
3. 未来の受動の行為。主動詞に対して「以後」。「まさに〜しようとする」
Veniunt inimici urbem destructuri.敵どもが町をまさに破壊しようと来る.
4. 不定法未来・能動形=未来分詞+esse
5. +sumで述語として用いられる場合がある.(→c.f.動形容詞の用法)
6-6 目的分詞(spinum)──「分詞」と言いながら動詞的名詞
1. 作り方:完了分詞(-us,-a,-um)の中性と同型.
 「分詞」だが動詞的名詞(第4変化名詞扱い:対格-um,奪格-uのみ)
2. 動詞の4基本形の最後.
3. 用法1:目的「〜ために」.移動を表す動詞eo,venioなどとともに.
cubitum eo. (<cubo,are寝る)
4. 用法2:不定法未来・受動態を作る.([目的]→[未来]を含意する)後述.目的分詞+iri (<eo:inf.pass.)
5. 用法3:奪格-uの形で、ある種の形容詞(感情・判断・可能性)とともに.
 限定「〜するのにノ(形容詞)」の意味で使う。
Multae res faciles sunt dictu, sed non factu.多くは言うは易く行い難し.
63


 7. 未完了系
 前項で、動詞の示す動作・状態の〈完了〉という意味のイメージをある程度つかんだであろう。次に、あらためて現在時制を含む未完了系3時制についてまとめよう.
7-1 直接法・未完了系3時制の変化
一般動詞の場合
 現 在 [現在幹]+          +人称語尾
未完了過去 [現在幹]+[未完了過去の接辞-ba-] +人称語尾(1sg.-m)
 未 来 [現在幹]+[(※)未来の接辞 -bo-] +人称語尾
※未来の接辞は、第1活用・第2活用のみ、しかも1sg.のみ
 他は-bi-(3pl.のみ-bu-nt)
 第2活用・第3活用は、1sg.のみ-a-、他は-e-
活用表で確認せよ。
7-2 不規則動詞の活用
sumの現在・未完了過去・未来(『はじめての』p.127-)
現在 未完了過去 未来
単数 1人称1sg. su m era m er o#
2人称2sg. es era# s eri s
3人称3sg. es t era t eri t
複数 1人称1pl. su mus era# mus eri mus
2人称2pl. es tis era# tis eri tis
3人称3pl. su nt era nt eru nt
possumの変化はpot-(またはpos-)
それ以外の不規則動詞を活用表で確認せよ。
eo#, fio#, fero, volo(nolo, malo)
64


 8. 受動態
 1-2,1-3でみたようにラテン語動詞には〈態〉として能動態と受動態がある。
 これは、動詞が主語との関係でどの方向に向いているかを示す。
   能動態:[主語]─[動詞]→([目的語])
   受動態:[主語]←[動詞]─([行為者])
8-1 未完了系と完了形
 未完了系と完了系とで、受動態の作り方が異なる。
 というのは、完了系時制についてはそれ自体で、受動的意味
「〜してしまった」→「(その動作が)もう事実とされてしまった」
を含むから(→p.56. 3-4参照)。完了系の各時制の受動態は完了分詞を使う。
 未完了系 -受動態人称語尾
  完了系 完了分詞+ sum
8-2 受動態人称語尾(『はじめての』p.190)
数 人称 人称語尾 amo moneo lego audio
単数 1 -r amo r moneo r lego r audio r
2 -ris ama ris mone ris lege ris audi# ris
3 -tur ama tur mone tur legi tur audi# tur
複数 1 -mur ama mur mone mur legi mur audi# mur
2 -mini# ama mini# mone mini# legi mini# audi# mini#
3 -ntur ama ntur mone ntur legu ntur audiu ntur
全活用型で1sg. -o-に注意。
第3活用2sg. でつなぎ母音 -e-が出ることに注意。
また第3活用・第4活用3pl.で -u- が出ることに注意。
8-3 未完了過去・未来の受動態(『はじめての』p.192)
人称語尾を受動態人称語尾に代えるだけで良い。
65


 9. 形式受動態動詞(デポネンティア)
9-1 意味・名称について
1. 形式受動態動詞(デポネンチィア動詞)とは
 意味は能動であるにもかかわらず、語形だけは受動態になっている動詞.
 文法的に変わっているが、よく用いられるもの有り、あなどれない,要注意.
2. 名称について
 文法書によって、変位動詞、能動欠如〜、形式所相〜、形式受動態〜などの表記があり一定していない(「変位動詞」は、語形と意味とが異なっているものを包括して言う).用語として最も分かりやすいものをここで用いる.
3. 態は?
『新ラ』他の説明によると、能動態の形式を放棄した(deponens<depono, ere)ということだが、「態そのものの区別が無い」と考えた方が判りやすい.
9-2 辞書の表記
辞書の見出しは、@直・現在1sg.A不定法現在B直・完了1sg.だけ。
 Bは語形が受動態、すなわち [完了分詞]+sumなので、C目的分詞は不要
e.g. opi#nor「〜と考える」= @opi#nor, Aopi#na#ri#, Bopi#na#tus sum
語形は@直・現在1sg.受動態、A不定法現在受動態、B直・完了受動態1sg.
9-3 活用
1. 活用は、他の動詞受動態同様.不定法の幹母音で区別.第1活用が多い.
2. 完了系各時制でのみ形式受動態になる動詞がある.fido, fidere, fisus sum.
3. 不定法
 不定法現在、不定法完了は、受動態の形式のみ.不定法未来のみ能動形.
e.g.不定法現在opi#na#ri#,不定法完了opi#na#tus esse#, 不定法未来opi#na#tu#rus esse
「考えること」「考えたこと」「考えようとしていること」
4. 目的分詞の形は、普通の動詞と同型.e.g. opi#na#tum
5. 動名詞(後述)は、普通の動詞と同型.e.g. opi#na#ndum
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9-4 (形式受動態)命令法=命令法・受動態
1. 現在2sg. =不定法現在・能動態と同形
Misere#re laborum tantorum.(<misere-or)大きな骨折りに同情せよ.
Loque#re tuum mihi nomem.(<loqu-or)あなたの名前を言って下さい.
2. 現在2pl. = 直接法現在・受動態2pl.と同形
Audite et misere#mini sociorum.(Cicero)仲間に聞け、そして同情せよ.
Bene latine loquimini.(Cicero)じょうずにラテン語を話せ.
3. 未来2sg.・未来3sg.=現在幹-tor/未来3pl.=現在幹-ntor
miseretor, miserentor
9-5 (形式受動態)完了系の時制p.212-213
 完了系の時制でもやはり(普通の完了)受動態の形になる.→8-1
opinatus sum(主語は男性単数)、opinata sum(主語は女性単数)ノ
と、主語の性・数によって完了分詞の語尾が変化するので注意.
9-6 注意すべき用法
形式受動態動詞の中には、特別な格を支配するものがある.頻出はしない.
1. 奪格をとる(本来、目的語として対格をとるべき場合に)
Vita ipsa qua fruimur brevis est. (Sallustius)
生命によって楽しむ生命それ自体は、短い(はかない).(<fruor,frui楽しむ)
他にutor使う、fungor果たす、potior自分のものにする、など
2. 与格をとる
Vehementer his assentior quae dicuntur. (Cicero)
力を尽くして、その言われていることに賛成する.(<assentior,iri賛同する)
他にgratulor祝う、auxilior助ける、など
3. 属格をとる
Deus eorum non miseretur qui aliorum non miserentur.
神は他の者たちを憐れまない者を憐れまない.(<misereor,iri憐れむ)
他にobliviscor忘れる,recordor/reminiscor思い出す,これらは対格もとる.
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 10. 非人称動詞
10-1 意味・名称について
1. 主語が明示されない文で3人称単数の形だけで使われる動詞.
 文法上3人称単数だが、非人称の表現.×ego placeo ○placet
 では主語はどうやって表すのか?→意味上の主語として対格・与格などで.
2. 普通の動詞でもで非人称的表現をするものがある.
3. 天候・感情・状況などの意味を表す動詞がある.
 人間のコントロールが効かないニュアンス→超人的表現→非人称的表現
10-2 辞書の表記
辞書の見出し:
@直・現在3sg. A不定法現在 B直・完了3sg. C [完了分詞]+est
e.g. licet「〜できる」= @licet, Alice#re, Blicuit, Clicitum est
10-3 種類と用法
 いずれも不定法・不定法句を伴うことがある.
1. 自然現象を表す
pluit雨が降る, nignit雪が降る, tonat雷が鳴る
2. 感情を表す
miseret憐れむ,taedet嫌になる,paenitet後悔する,decet相応しい
感情の原因→属格、感情抱く者(意味上の主語)→対格
3. 状況を表す
licetできる(許されている), placet気に入る, paenitet後悔する
意味上の主語→与格
Licet mihi ire. 私(に)は行くことが許されている
oportetねばならぬ, accidit/evenit起こる, paenitet後悔する
意味上の主語→不定法・不定法句
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 11. 不定法
11-1 意味・辞書の表記
1. 直接法・接続法・命令法に並ぶ動詞の一つの法.
 名詞的用法をもつ動詞で、後述する動名詞と関連をもつ.
2. 代表的な訳は「〜(する)こと」.
3. すでにみたように動詞基本形の第2項目に「不定法現在」が示されている.
11-2 不定法の態・時制
1. 一般的な動詞
不定法 能動態 受動態
現在 「現在において進行中・継続中の動作」
現在幹+[ヨre] 現在幹+[ヨr I#]
ama#ヨre (愛すること) ama#ヨr I# (愛されること)
完了 「すでに完了した動作」
完了幹+[ヨisse] 完了分詞+ esse
amavヨisse (愛したこと) amatヨus esse
(愛されたこと)
未来 「未来の動作」
未来分詞+ esse 目的分詞+ I#rI#
ama#tヨurus esse
(愛しようとすること) ama#tヨum I#rI#
(愛されようとすること)
完了受動態(amatus esse)と未来能動態(amaturus esse)のように不定法を分詞によって構成するものは、場合によって性・数・格で変化するので要注意.未来受動態(amatum iri)は目的分詞なので不変化.
2. デポネンティア動詞(9-3,3参照)
形式受動態なのだから、hortorの不定法現在horta#rI#「励ますこと」、不定法完了horta#tus esse「励ましたこと」となる.ただし不定法未来のみ能動態horta#tu#rus esseだけある.
不定法 デポネンティア(形式受動態)動詞
現在 horta#ヨrI# (励ますること)
完了 hortatヨus esse (励ましたこと)
未来 horta#tヨu#rus esse (励まそうとすること)
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3. 不規則動詞の不定法
能動あるいは受動のみ有し、形も不規則なものがある.
能動 受動
sum 〜である esse −
fero# 運ぶ ferre ferri
volo# 欲する velle −
fio# 〜に成る − fierI#
11-3 用法
1. 名詞としての不定法
(1)中性・単数n.sg.扱い.
(2)主格/対格のみ.主格以外の格は動名詞が担当.
(3)おもに不定法現在、不定法完了はまれ.
  e.g. Neque dolce neque decorum est pro patria mori.
    祖国の為に死ぬことは甘美でも優美でもない.
  e.g. Humanum est errare. (Hieronymus)
    過つことは人間的である(人の常である).n.sg.扱い.
2. 動詞としての不定法
(1)目的語・補語をとることができる.
  e.g. Solus sapiens scit ama#re.(Seneca)賢者のみ愛することを知る.
  e.g. Vide#re est cre#dere.見ることは(本当と)思うこと.百聞は一見に.ノ.
(2)補足不定法(prolative infinitive).補助動詞の目的語として.
 補助動詞=それ自体で意味が決定しない動詞(e.g. possum=[E]can)+不定法
 補助動詞の種類:意志、命令、義務、習慣、開始などを意味する動詞
cupio欲する、cogo強いる、jubeo命ずる、veto拒否する、
debeo〜ねばならぬ、incipio始める、soleo〜のが常である
この場合、補足する不定法が〈繋辞またはそれに準ずる〉動詞ならば、不定法の述語に相当する語(例えば補語に相当する語)は、主文の主語と性・数・格を一致させねばならない。
  e.g. Nemo vult vocari stultus.(誰も、愚か者と呼ばれることを望まない)
(3)不定法句
 不定法の意味上の主語は、主文の主語と異なる場合には、対格(主動詞の目的語の役割).「Aは、Bが(acc.)〜することを(inf.)、〜する」
  e.g. Mater censet puerum iam dormire.(母は子が既に眠っていると思う)
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 12. 動名詞・動形容詞
12-1 意味
1.〔動詞的な名詞〕=動名詞[E]g屍und<[L]gerundium.代表形は対格.
 不定法(詞):主格または対格としてのみ.動名詞:他の格変化をもつ.
2. 不定詞と異なって、受動態無し.しかし意味上受動態になることがある.
12-2 語形
1. 作り方
格 作り方 例 例(第4活用注意)
属格 [動詞幹]+-ndi ama-ndi audi-endi
与格 [動詞幹]+-ndo ama-ndo audi-endo
対格 [動詞幹]+-ndum ama-ndum audi-endum
奪格 [動詞幹]+-ndo ama-ndo audi-endo
2. 形は第2変化名詞中性形、単数のみ.(動名詞を「動詞的中性名詞」とも称する)
 主格は? →不定法(詞)
3. 形式受動態(デポネンティア)動詞は? 上と同様の作り方.能動-受動の形無し.
 e.g. opinor, ari.(第1活用)→opin-a-ndum/vereor, vereri.(第2活用)→ver-e-ndum
12-3 用法
1. 属格「〜することの」「〜するための」
(1)ある名詞と共に:cupido, desiderium, studium, causa, avidus, potestas, officium, ars等
causa, gratiaと共に「目的」を表す.→対格
(2)属格支配の形容詞と共に. cupidus, avidus, peritus
2. 与格「〜することに」「〜するために」
:与格支配の形容詞と共に.aptus, u#tilis, s知ilis等
3. 対格「〜することを」「〜するためを(に)」
:必ず前置詞(おもにad)を伴って、「目的」を表す.
4. 奪格「〜することによって」
(1)単独で:「方法」「手段」を表す.
(2)前置詞と共に:前置詞の意味による
5. 動詞としての性格から、目的語、補語をとる.
e.g. Philosophi multa scribunt de bene vivendo.
 哲学者らは善く生きるべきことについて多く書いている.
 ただし、目的語をとる場合には、動形容詞を用いるのが普通である.
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 13. 動形容詞
13-1 意味
〔動詞的な形容詞〕=動形容詞[E]ger從dive<[L]gerundivum.分詞的使い方.
 受動的意味、義務・必要・適正の概念を含む→未来の意味になる.
13-2 語形
1. 作り方:動名詞[-ndum]の語尾を-ndus, -nda, -ndumに代える(各々sg.m. f. n.)
ただし、第4活用動詞:audi-endus, audi-enda, audi-endum
2. 変化は第1変化・第2変化名詞型(-us, -a, -um)
3. 形式受動態(デポネンティア)動詞は? 上と同様の作り方.能動-受動の形無し.
 e.g. opinor, ari.(第1活用)→opin-a-ndus, opin-a-nda, opin-a-ndum
vereor, vereri.(第2活用)→ver-e-ndus, ver-e-nda, ver-e-ndum,
13-3 用法
1. 述語的用法.つまりsum動詞と共に. 行為者は与格(×奪格).
 e.g. Tibi vigilandum est semper.あなたは、常に警戒しなければならない.
2. 非人称表現
 e.g. nunc est bibendum.今、呑まれるべきである
 e.g. Juveni parandum, seni utendum est.
若者によって準備され、老人によって使用されるべきである。
3. 他動詞からつくられる動形容詞は、受動の意味をもつ.
 e.g. Semper adhibenda est moderatio. 常に慎みが用いられるべきである.
4. 動名詞の代用.(特に目的語をとる動名詞→動形容詞による表現へ)
artem amorem servandi non intellegis.「愛を守ることの術を,君は理解していない」
→「愛を守る術を」?「術を守る愛を」?
変換@:動名詞の目的語amorem→動名詞の格(この場合gen.)と一致させる=amoris
変換A:その格変化した目的語amorisの、性・数・格(m. sg. gen.)に一致させた、動形容詞servandi→servandiに置き換える.
例題:potestas augendi dignitatem「尊厳を増すための力」
potestas(f. sg. nom.)dignitatem(f. sg. acc.)
 答:動名詞augendi(gen.)の目的語dignitatemを、dignitatis(gen.= f. sg. gen.)に.
   dignitatis(f. sg. gen.)の性・数・格に一致させた動形容詞に置き換え.
   augeo,ere→augendus,a,um→(f. sg. gen.)augendae,したがって、
    potestas augendae dignitatis「尊厳を増すための力」
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呉茂一・泉木吉「ラテン語の造語法」
 以下に掲載したものは、「ラテン語の造語法」呉茂一・泉木吉『ラテン語小文典』(岩波書店1957年)73-81である。
 最初に説明されているように学術語として多用されるラテン語の造語考えを学ぶための基本的な資料として価値がある。
 なお、文法用語等は、本稿とは異なるものがあるので注意が必要である。
 また、同書本文への参照指示など不要なものは除いたがその箇所には※を付した。
 あくまで文法理解のために引用したものであり、必ず原著を参考にすること
§1.すべての語詞には、一次的に語根から直接に造られた語と、他の名詞、形容詞、動詞等から、二次的、あるいはたまには三次的に、造りだされた、いわゆる派生語とがある。学術語として応用のひろいのは、またここで必要なのは、一定の名詞、形容詞等から、どんな方法で、どんな具合に、他の品詞が造り出されるか、というその方法手段であろう。それ故、以下では主としてこの派生語 derivatives の作り方を述べることとする。しかしその内にも学術語として自ら軽重があるので、稀なものはこれを省き、一般的に重要なものを主として述べてゆくこととする。
§2.まず第一は、複合名詞 nomina composita の造り方で、これは形容詞などの場合にも応用される。すなわち2個(あるいは以上)の名詞、または形容詞幹が連結されて、一語(複合概念)をつくる折である。
a)まずこれが同等の立場にある二つの名詞(形容詞等)の場合には、両方の語幹をとり出し、
第一語幹+第二語幹(+新語幹形成詞)
とするのが、一般式である。
b)この際、第一語幹の終りが母音であるときは、これを -i- に変え、子音に終るものはこれに -i- を加えるのが通則である。但し、時に -o- に止るときもある(機械的な連繋の場合によく)。
c)あるいは一般に
第一語幹+ -i- +第二語幹(+新語幹形成詞)
と考えてもいい(本当は a 式が正しいが、記憶の便宜上)。
d)この際、第二語が母音で始まるときは、通例 -i- が省略される。しかし明確性を保つため、略されない場合も多い。
 これを例示すれば、まずつぎのごとくである。
§3.以上を多少類別して呈示するとしよう。
1)第一語が名詞の場合:
aurifex 金工 <aurum(語幹auro-)金+ facio 作る
armiger 武装せる<arma(語幹armo-)武器+gero帯びる
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Lu#cifer 暁の明星 <Lux 光+fero もたらす
pontifex 司祭 <pons(語幹ponti- )聖列?+facio
vo#ciferor, -atio 大声で叫ぶ<vo#x(語幹vo#c- )声+fero
Bellum Russo-japonicum 日露戦争
sulcus na#so-la#bia#lis 鼻唇溝 <na#sus+labium
liga#menta pu#bo-ve#sI#ca#lia恥骨膀胱靱帯<pubes(語幹pubi- )+ve#scica.
2)第一語が形容詞の場合:
mu#lti-formis 多形の<multus+forma+(i-s)
rect-angulum または recti-angulum 直角三角形<rectus+angulus
magnヨanimis 高邁な <magnus+animus+(i-s)
3)第一語が前置詞・接頭辞の場合:
これは後記するから、次節を見られたい。
4)第一語が、名詞の格形よりなる場合:
nom.:u#susfru#ctus(4)<usus+fructus 用益権, 享受使用
gen.:ve#risimilis 本当らしい; ju#rispru#dentia 法律の知識(学)
dat.またはabl.:u#surpo#<u#su#-rapio 占有, 横領する;
      manumissio<manu#+mitto 解放する(奴隷などを);
manu#scriptum;ple#bscitumなど。
§4.接頭辞 praefixa.
1)(※第一部§80で述べたように、)ラテン語の前置詞の多くは、接頭辞として用いられ、複合動詞(まず主として)の構成に資し、その意味をいろいろに修正変更して語彙に豊富さを加える。これはまた当然、その動詞から派生、あるいは関連する多数の話詞の構成にも関与するので、極めて重要なものである。それは、前節でも説いたが、次に例をあげ、その種類を示してゆくことにしよう。但し、その前綴が動詞に加える変化の内容は、時に著しく変っていて、必ずしも定め得ないことがある。(※なおこの際に起こる、語音の同化作用、音便については、T.§80,2を参照されたい)
ab-(a#-, abs-)‘分離、除去など’。
ab-undo>abundant-;
ab-do#men;
abs-traho>absヨtract-;
a#mitto>amiss
ad-‘向進、附加など’。
ad-icio>adject-; af-fect-; an-nex-
ante-‘前、予見など’。
ante-cedo>antecedent-;
ante-nuptial;ante-deluvian(anti-はギリシア語※。但しanti- cipat-,antiquusはラテン)
contr-‘反対、対立’。
74

contra-dico>-dict-;
contraヨsto>contrastヨ
con-(cumより)‘共に、くるめ、しまう’。
con-cludo<claudo‘閉じる’より;
col-la#bor>-collaps-
de#-‘除去、降下、しまう’。
de-duco>-deduct-;
de−mens>-mentia;
desI播ero>desiderium;de-lI排ium
ex-( e#- )‘外へ、出す、しまう’。
ex-traho> -extract-; ef-feminat-;
erumpo> -erupt-
in-*‘中へ、こめる’。
in一figo>infix-;
I芭-minent-; il-lustrat-; I馬-stI馬ctus
*否定のin- は下項参照。
inter-‘間,中へ’。
inter-rogo;
inter-est<-intersum‘関与する,利害をもつ’より;
inter-vallum; inter-regnum
ob-‘上へ、向って’.ob-icio>-ject-;of-fero;o-mitto;ob-sta#culum
per-‘通じて、変える’。
per-fect-;per-do>-ditio;pel-lucidus
post-‘後で、後へ’。
post-pono;posterior,
posthumus(正しくは postumus)
prae-‘前に、前へ’。
prae-sens; prae-la#tus; praeヨsa#gium;
praesideo>president; prae-pu#tium
praeter-‘越えて、さらに、すぎる’。
praeter-eo>praeter-it-; preter-natural
pro#-‘前へ、予め’。
pro-video>-videntia; pro-tract-;
pro-pono>-posit-
sub-‘下へ、つぐ’。
sub-duco; suc-cedo>-cess-;
suf-fero; sub-stan-tia; sub-ject-
super-*‘上へ、よけいに’。
super-fluo>-fluus; super-cilium まつげ;
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super−ficies<-facies 表面
*フランス語に入ってsur- となる。surprise,sur-r斬lisme など。
tra#ns-‘こえて、横ぎって’。
trans-ago;trans-fero;trans-mitto;
tra#-do>-tradition
黒字体は中でも多く用いられる語を示す.なお次項,および※ギリシア語の前綴りを参照されたい.
2)ラテン語には、前置詞としても用いられる接頭語以外に、いくつかの、同様な働らきをするが、独立では語調の用をなさない接頭語がある。その主なものは次の如くである.
ambi-‘両方、二股’。
amb-iguus<ambi+ag- + o-;
amb-ition-<ambi+i(行く)+ tiヨo#n;
ambi-dextrous
dis-‘分散・分離、否定’。
dis-traho;dif-fusus;dI-luo>-lut-;
dis-figure;dis-(s)ting-uo>distinct-
in- ‘否定、反対概念の表示’。
in-animatus;il-literatus;ir-regularis
re- (red- )‘再帰・かえる’。
re-duco>-duct-;re-forma-;re-paro(1)
se#- ‘分離、わける’。
se-paro(1);se-duco;se-cludo;se-lect-
その他、数詞などからも(上の ambi- もこれに入れてもいい):
u#ni- ‘一つの’。
uni-tas;uni-versus>-versitas;uni-formis
bi-‘二つの’。
bi-ennium 二年;
bi-ceps,gen. -cipitis 二頭の;
bi-pennis 双翼の
tri-‘三つの’(ギリシア語も同形)。
tri-ceps 三頭の;tri-ennium;tri-folium
se#mi-‘半分’(ギリシアはhe#mi- )。
semi-circular-is;semi-vocalis;semi-officiaI
centi-‘百の’。
centi-peda(mille-peda,multi-pedaともいう)むかで;
cent-uria;cent-enarius
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§5.形成詞(接尾辞的)formantia.
 ラテン語の話詞は、一次的(またはこれに準ずる)ものに、種々な、一定の語音の結合を附加して、二次的、三次的、以下の、いわゆる派生語を作ることでも、大いに豊富にされ、変化を加えている。これにはいろいろな種類があり、内には大体一定の働らきをもつものも多い。これらは一般には形成詞(名詞形成詞、形容詞形成詞など)formantia と呼ぶべきであるが、その中、作用の大体明らかなものは、接尾辞 suffixa(文法書によっては、これを全般的名称に用いるものもある)といってよろしい。以下に大体、その中でも科学用語として注意すべきものを拾って、類別して示すこととしよう。
§6.縮小辞 deminutiva.
 その中でも特殊なのは, 同種の(時には類似の)小形のもの, または愛称を示す, 縮小辞である。これにも多種あるが, 多くは, 第一, 第二変化所属で(大体原語の性による), 原語幹に -lo- の種々な変化(みな第一, 第二変化所属;f. では勿論 -a- となる)を附して造られる。
-olo-、-ulo-、-culo-、-ello-、-illo-:
alveolus 小槽, くぽみ<alveus m.くぼみ, 槽;
foveoIa<fovea 窪み;
lu#nula 小月形<lu#na f. 月;
capitulum 小節<caput n.頭;
corpus-cuIum 小体;
arti-culus 関節<artus m.肢体;
tu#ber-culum, cf. tu#ber-culo#sis<tu#ber n.こぶ, 突起, 吹出物。これが一番多い。
cerebellm 小脳<cerebrum 脳;
flagellum 小鞭>flagrum n.むち;
pe#nicillus 小屋<pe#nis m.尾、陰茎;
pa#stillus 小塊<pa#nis(*past-nis)
§7.名詞より形容詞の形成
 これには非常に多くの方法が用いられる。その主なものは次の如くである(例はm.で表わす):
1)-a#li-,-a#ri-(第三変化, -i- 語幹)。非常に多い。
labialis 唇の<la#bium;
nasalis 鼻の<na#sus;
facialis 顔面の<facies. cf. super-ficia1is
ala#ris 翼の<a#la;
articula#ris 関節の<articuIus
2)-a#to-(第一,二変化所属)
 動詞のp.p.p. のことが多いが、名詞からも直接‘…をもてる’の意に用いられる。 cf.
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one-eyed,sharp-edged.
denta#tus 歯のついた, 歯状の<dens,dentis 歯;
barba#tusひげの生えた<barba;
vertebra#ta 脊椎動物<vertebrae 脊椎
3)-o#so-(第一、二変化)
‘…に豊かな、に冨める’の意味。かなりにある。
formo#sus 美しい<forma 姿;
spino#sus<spina 棘
4)-I馬o-(同上)。性質、形状などを示す
canI馬us 犬のような<canis;
fe#minI馬us<fe#mina 婦人;
pala#tI馬us<palatum 口蓋
5)-io-,-eo-,-a#ceo-,-a#no-,-(a#)neo-(同上)。種々な小変化あり。
mu#sculus bu#cina#to#rius <bu#cina#tor角笛やらっぱを吹く者 <bu#cinaらっぱ;
riso#rius<risor 笑う者<rideo 笑う
ferreus 鉄の<ferrum n.鉄;
popliteus 膝躍の<poples, gen.poplitis f. ひかがみ;
osseus 骨の、骨化した<os,gen.ossis n. 骨;
gallI馬a#ceus 鷄のような<gallI馬a 牝鷄;
cru#sta#cea 甲殻類 n. plur. <cru#sta 硬殻;
herba#cea<herba草。動植物の科名として多く用いられる(scil. anima#lia etc.)。
pa#ga#nus 田舎の,異教徒の<pa#gus 田舎の地区;
veter- a#nus<vetus 古い、gen. veteris;
hu#ma#nus<homo;
monta#nus 山の<mons,montis.
sponta#neus 自発的な<sponte 自ら;
sub-cuta#neus 皮下の<cutis f. 表皮;
extra#neus 外部の<extra# adv. s.prep. 外に。
6)-a#rio-,-icio-,-ico- など。
前二者は上記 -io- 形の一種ともいえる。-ico- は,ギリシア語に多いが,ラテンにも相当ある。
sagitta#rius 矢形の、矢に属する、射手<sagitta 矢;
argenta#rius 銀に属する、銀行家;
adversa#rius 対立する、敵手<adversum 対して;
contra#rius 反対の<contra# 反して。
patricius 父親からの(市民), ローマの貴族階級<pater;
novicius 新米の<novus;
classicus 第一級の, 古典的の<classis 階級;
pu#blicus 民衆の、公の<populus 民衆,しかしエトルスキ起源かもしれない;
Africus アフリカの<Afer アフリカ人;
78

Hadria#ticus アドリアティク(海)<Hadria 地名。
7)-e#nsis m.f.,-e#nse n. (語幹:-e#nsi- または -e#si,第三変化,-i- 語幹)
 これは地名などから形容詞(‘…で見出される, …に属する, …にある’)を作るのに多く用いられる。また名詞化して‘…人’となる。
Sine#nsis シナの<Sina,Chine#nsis はあまり使われない;
Japo#ne#nsis 日本の<Japo#nia;
Athe#nie#nsis アテーナイの<Athe#nae,
またそれぞれシナ人,日本人,アテーナイ人;Chinese,Japaneseはその近代形である。
8)これらはみな形容詞であるから、当然その附随形容する名詞の性に従う。但し自身が名言同化して用いられた場合は別である。e.g.
m. plur. mu#sculI inter-ossei dorsa#le#s 背側骨間筋<dorsum 背中
f. plur. arte#riae pala#tI馬ae mino#re#s 小口蓋動脈
n. sing. os lacrima#le 涙骨<lacrima 涙
n. plur. fora#mina pterygo*pala#tI馬a 翼口蓋孔(2として)
*このようなギリシア系名詞も多く混入する。
§8. 形容詞より名詞の形成
1)形容詞は、本来きわめて名詞化しやすいものである。この場合、ある名詞、例えば、‘人’、‘物’、‘女’などの語が省略されている、と考え得る場合も多いが、元来の性質と見るのが妥当である。ことに動詞の現在(能動)分詞は、名詞‘…する人、者’として、近代語に極めて多数に入っている。
e.g. agent<ago;
belli-gerent (belli-のiに注意)<bellum+gero;
component; tangent etc.
2)また過去分詞 p.p.p.も、‘事物’として名詞化される。
act 法令<actum,acta; fact<facio;
Precept<Praeceptum<Prae-cipio etc.
3)その他一般には、形容詞は、以下のように種々な形成詞(接尾語)によって、名詞化される。‘美しさ、清らかさ、深み’の類で、性質、条件、状態を表示する女性名詞である。
 a.第一変化所属:-ia、-(i)tia
auda#cia 大胆さ<auda#x;
vere#cundia<verecundus;現在分詞から甚だ多く:
essentia<essens,中世ラテンのWesenに当るsumの現・分;
licentia<1icetの現・分より、licence;
indulgentia<indulgeoの現・分より;
just-itia,justice<justus 正しい;
ava#r-itia,avar-ice<ava#rus 貧欲な。
 b.第三変化所属:-ta#s(-ta#tis)*,-tu#s(-tu#tis),-tu#do#(-tu#dinis)
79

*( )内はgen. を示す。また多く -i- を挾むのに注意。
この内には、直接、語根概念から出るのもある(性質名詞).
e.g. universita#s>u#ni-versus;
hones-tas<honor、*honos-、hones-;
tena#-cita#s<tenax 強靱な;
juven-tu#s<juven-is;
senec-tu#s<senex,*senec-,*sen-;
alti-tu#do# 緯度<altus 高い;
la#ti-tu#do 経度<latus 拡がった。
§9・動詞より名詞、形容詞の形成
 これも多くの形成詞(接尾辞)によって成される.いろいろな種類のがある。
1)動詞概念の表示。‘…するはたらき、…すること’。
-io#(gen. -ionis)、
-tio#(-tio#nis)、-tu#ra(-turae)、
この二者は歯音の後で -sio#、-su#ra となる。みな女性名詞。 -(e)ntiaをここに入れることも出来る(元来は動詞より)。
opinio#<opinor 思う;
oblivio#<obliv-iscor 忘れる;
na#-tio#,nation<na#-scor 生れる;
proposi-tio<pro-pono;
oppressio#<ob-primo,oppressus 圧迫する;
commissio<con-mitto 犯す・委す;
pres-su#ra<primo,pressus 圧す;
pictu#ra<pingo,pictus 描く、塗る:
me#nsu#ra,measure<me#tior 測る;
patientia 忍耐づよいこと,忍ぶこと,辛抱,
patience<patiens<patior 忍ぷ、蒙る。
2)上とほぼ同じく動作機能を表わすが,さらに普通概念化し易い。
-tus,-sus(m.第四変化);
-tis,-sis(f.);
-or,gen. -o#ris(m. 本来は -s- 語幹)。
a#ctus,gen. a#ctu#s,act 行為<ago;
factus 事実;
se#nsus,sense<sentio;
u#sus,use<u#tor 用いる。
ars,artis(芸)術<ar- 合せる,適する;
mors,mortis 死<morior死ぬ;
me#ns,mentis 心<men-,c.f. me-min-i 憶う。
80

color 皮の色,色<ce#lo おおう;
dolor 悲しみ<doleo 痛む;
calor 熱さ<caleo 暑い c.f. calory.
3)‘…する人,…する女’.
-tor,m. gen. -to#ris(-sorともなる);
-trix,f. gen. -tricis.
leva#tor 挙げる者;salva#tor 救い主;
victor 勝利者<vinco 勝つ,征服する;
rI敗or<rideo 笑う。
crea#trix 創造する女性<creo(1);
victrix勝った女性。
この1,2,3とも、語幹は p.p.p.(spinum)幹である。但し-io,-tis,-orは直接語根より。
4)その他
-men(gen.-minis), -men-tum(第二変化)
は、ともに中性語で、大体動詞概念に関る‘もの’を示すが、多少転位していることもある(ギリシア語の-maに当る)。
se#-men 種子<se-ro 播<;
lu#-men 光<lu#ceo 光る;
mo#mentum<moveo 動く;
experi-mentum<experior 経験する,ためす。
5)形容詞は、動詞語根(幹)から
-idus(第一,二変化),
-tI牌us(同上, p.p.p. 幹より)
として、また上記の名詞形を経て
-tio#na#lis,-to#rius,-tu#ra#lis
などの形でも造られる。e.g.
calidus 熱い<caleo 熱い、calor.
validus<valeo 強い,価がある cf. invalid.
na#tivus:nation,nativity;
a#ctI牌us<act,ago;
intentional:intention<intendo 志す;
illu#so#rius,illusory:illusion<il-lu#do# 欺す
naturalis<natura<nascor 生れる。
81

 14. 奪格別句(「絶対的奪格」)
14-1 意味・特徴
1. ラテン語に特徴的な(ラテン語らしい)表現.わりと出てくる.
2. 分詞構文が、主文に対して説明の役割をするのに対して、
  主文に独立して(独立分詞構文のように)用いられる.
3. 奪格別句の(意味上の)主語は、主文の主語と異なる.
4. 時間的順序:
現在分詞:主文の主語と同時.
完了分詞:主文の主語の以前.
未来分詞:主文の主語の以後.
14-2 作りかた
  〔意味上の主語〕(abl.)+〔分詞〕(abl.)
1. 現在分詞を用いた奪格別句:「〜が 〜する[ので/けれども...]」
 e.g. Cum pater dormit, latro cubiculum intrat.
  →Patre dormiente, latro cubiculum intrat.父が寝ている時泥棒が部屋に入る.
2. 完了分詞を用いた奪格別句:「〜が〜された[ので/けれども...]」
 e.g. Germani, clamore audito, se ex castris eiciunt.
 ゲルマン人たちは、叫び声を聞いて(叫び声が聞かれたので)、陣地から飛び出す.
3. 形式受動を用いた奪格別句:意味は能動.ea mortua, ....「彼女が死んだので...」
4.奪格別句の(意味上の)主語は、主文の主語と同じであってはならない(前述).
×Patre dormiente, filius patrem vocat.
○Filius Patrem dormientem vocat.
分詞の代わりに、名詞の奪格の場合もある.
 e.g. Me duce tutus es. 私が将軍で(あるなら)、あなたは安全だ.
tutus,a,um安全な
82

補足説明(不定法)
1. 文法では、不定詞、動名詞、動形容詞、分詞のように、文中の、主語・目的語・補語や修飾語として用いることのできる用法をもつ動詞を、non-finite verbsという.不定詞(不定法の動詞)は、その一つ.
※プリント70頁「名詞としての〜」「動詞としての〜」は、両面を不定法がもつことを示す目的での説明だったが、却って判りにくいかもしれない.次のように補足する.
2. 〈動詞としての〉不定詞
不定詞は、単に名詞的役割を果たす(主文の中で、主語や目的語など)だけでなく、それ自体、目的語・補語をとる動詞としての文法的機能をもつ.
その場合に、目的語・補語を対格にし、意味上の主語も対格に
意味上の主語を対格におく不定詞句の中で.
 この場合、意味上の主語に対して動詞の役割をする.
※ただし、不定詞句全体は、主動詞の目的語や主語として用いられる.
e.g. Rosa floret.→Video rosam florere.私は、バラが 咲いているのを、見る.
e.g. Errare numanum est. 間違えることは、人間的である.
(不定詞一語の場合、〈(不特定の者が/一般者が)〜すること〉という意味で考えるとこれも不定詞句の代わりとみなすこともできる.)
 e.g. Solus sapiens scit ama#re.(Seneca)賢者のみ愛することを知る.
 e.g. Vincere scis, Hannibal, victoria uti nescis.
 ハンニバル、君は、勝つということを知っているが勝利を利用することを知らない.
※不定詞句全体を目的語とする場合、主動詞には次のようなものがある.
(a)知覚動詞:scio, video, credo, spero, judico, cogito, scio, audio
(b)感情動詞:gaudeo,doleo,rideo笑う, fleo泣く
(c)意志動詞:volo, nolo, cupido
(d)伝達動詞:dico,言う, narro語る, nego否定する, nuntio知らせる
※不定詞句全体が主文の述語として用いられる場合.
e.g. Prima naturae lex est diligere parentes.
本性の第一の法は、両親を 愛することである.
83

VII 接続法
 1. 接続法(概観)
1-1 意味・特徴
1. 接続法の文法的特徴
接続法は、願い・考えを述べる法 (mode)である。すなわち、直接法が話者の主観によらない叙述であるのに対して、接続法は命令・禁止、希望・願望、可能性、後悔など話者の主観的立場からの叙述である。
2. 接続法の使用の形
接続法 (Subjunctivus:「従属させられた」)──その名が示すように従属文の中で出てくる.したがって複文で頻繁に用いられる.しかし独立文(単文)でも用いられる場合がある.
3. 接続法の時制
直接法には6つの時制(未完了系3時制+完了系3時制)があった.
接続法では4つの時制(未完了系2時制+完了系2時制).
接続法 過去 現在
未完了系 未完了過去     現在
完了系 過去完了 (現在)完了
→接続法には未来関係の時制(未来、未来完了)はない
(※未来時制「〜だろう」は、直接法であっても話者の意志のニュアンスをある程度表現できる.接続法は法それ自体で話者の意志表明のモードに入っている)
直接法のと比較すると、接続法の時制には(後述するように)明確な相違はない.
その反面、複文中で主文との間で、時制に関して調整が必要となる.→時制関係
1-2 おもな用法
1. 単文
接続法の用法は、用いる場合が単文中でと複文中でに大別できる.後者が多い.
2. 目的文・話者の意志(ut/neなど)
3. 間接疑問文
接続法では、主文と従属文とで、時制の対応関係をどのようにするか決められている.
4. 時間・原因(cum)
5. 条件・譲歩の文(si/nisi他)
6. 程度・結果の文
84

1-3 作り方
1. 接続法〈現在〉
@能動形 動詞幹+ e + 能動形人称語尾(T)
 現在幹+ a + 能動形人称語尾(U・V・W)
能動

I

II

III   IIIb

IV
単数
1
-em
(am-em)
-am
(mone-am)
-am
(leg-am)
-iam
(capi-am)
-iam
(audi-am)
2
-es
(am-es)
- as
(mone-as)
-as
(leg-as)
-ias
(capi-as)
-ias
(audi-as)
3
-et
(am-et)
- at
(mone-at)
-at
(leg-at)
-iat
(capi-at)
-iat
(audi-at)
複数
1
-emus
(am-emus)
- amus
(mone-amus)
-amus
(leg-amus)
-iamus
(capi-amus)
-amus
(audi-amus)
2
-etis
(am-etis)
- atis
(mone-atis)
-atis
(leg-atis)
-iatis
(capi-atis)
-atis
(audi-atis)
3
-ent
(am-ent)
- ant
(mone-ant)
-ant
(leg-ant)
-iant
(capi-ant)
-ant
(audi-ant)
A受動形 〔能動形→〕受動形人称語尾[r, ris, tur, mur, mini, ntur]に換える
2. 接続法〈未完了過去〉
@能動形:[不定法 現在(能動形)]+(能動形)人称語尾
能動 T U V    Vb W
単数 1 -are-m
(amare-m) -ere-m
(monere-m) -ere-m
(legere-m) -ire-m
(audire-m)
2 -are-s
(amare-s) - ere-s
(monere-s) - ere-s
(legere-s) -ire-s
(audire-s)
3 -are-t
(amare-t) - ere-t
(monere-t) - ere-t
(legere-t) -ire-t
(audire-t)
複数 1 -are-mus
(amare-mus) -ere-mus
(monere-mus) -ere-mus
(legere-mus) -ire-mus
(audire-mus)
2 -are-tis
(amare-tis) -ere-tis
(monere-tis) - ere-tis
(legere-tis) -ire-tis
(audire-tis)
3 -are-nt
(amare-nt) -ere-nt
(monere-nt) - ere-nt
(legere-nt) -ire-nt
(audire-nt)
A受動形:[不定法 現在(能動形)]+(受動形)人称語尾
e.g. [- are-r, -are-ris, -are-tur, -are-mur, -are-mini, -are-ntur]
[- ere-r, -ere-ris, -ere-tur, -ere-mur, -ere-mini, -ere-ntur]
85

3. 接続法〈完了〉
@能動形: [過去幹][-erim, -eris, -erit, -erimus, -eritis, -erint]
※ 1sg.,3pl.以外の語尾は、「-esse 未来(直接法)」と同形。
すべての人称・数で er-i-[人称語尾] の形。
能動 T U V    Vb W
単数 1 -erim
(amav-erim)
(monu- erim)
(leg- erim) (cep-erim)
(audiv-erim)
2 -eris
(amav-eris)
(monu- eris)
(leg- eris)
(audiv - eris)
3 -erit
(amav-erit)
(monu- erit)
(leg- erit)
(audiv - erit)
複数 1 -erimus
(amav-erimus)
(monu- erimus)
(leg- erimus)
(audiv - erimus)
2 -eritis
(amav-eritis)
(monu- eritis)
(leg- eritis)
(audiv - eritis)
3 -erint
(amav-erint)
(monu- erint)
(leg- erint)
(audiv - erint)
A受動形: [完了分詞]+ 「esse 現在(接続法)[sim, sis, sit, simus, sitis, sint]」
e.g. amatus(-a/-um) sim, amatus(-a/-um) sis, amatus(-a/-um) sit,
amati (-ae/-a) simus, amati (-ae/-a) sitis, amati (-ae/-a) sint
4. 接続法〈過去完了〉
@能動形:[不定法 過去(能動形)]+(能動形)人称語尾 e.g. amavisse-m, ノ.
能動 T U V    Vb W
単数 1 -issem
(amav-issem)
(monu- issem)
(leg-issem) (cep-issem)
(audiv-issem)
2 -isses
(amav-isses)
(monu-isses)
(leg- isses)
(audivi- isses)
3 -isset
(amav-isset)
(monu- isset)
(leg- isset)
(audivi- isset)
複数 1 -issemus
(amav-issemus)
(monu- issemus)
(leg- issemus)
(audivi- issemus)
2 -issetis
(amav-issetis)
(monu- issetis)
(leg- issetis)
(audivi- issetis)
3 -issent
(amav-issent)
(monu- issent)
(leg- issent)
(audivi- issent)
A受動形:[完了分詞]+「esse 未完了過去(接続法)」
            [essem, esse#s, esset, esse#mus, esse#tis, essent]
e.g. amatus(-a/-um) essem, amatus(-a/-um) esse#s, amatus(-a/-um) esset,
amati (-ae/-a) esse#mus, amati (-ae/-a) esse#tis, amati (-ae/-a) essent
86

 2. 接続法の用法(単独で)
2-1 意味・特徴
2-1-1 すでに述べたように、接続法は複文の従属文中で用いられることのほうが多い.しかし直接法と同様に、単独で用いる用法に接続法の基本的な意味が表れている.
2-1-2 接続法の基本的意味は、話者speakerがとらえた事柄を自ら述べる話法である.それを大きく分けると、@「話者の要求」、A「可能性」になる。
2-1-3 両者の区別は否定辞に現れる.A「可能性」nonに対し、@「話者の要求」ne.
2-1-4 時制・人称によって意味に違いが生じる.
2-2 用法
 文法書によって接続法の用法の分類や説明の仕方に若干の違いがみられる.ここではなるべく複雑さを避けながら理解しやすい形で説明を試みる.
2-2-1 「話者の要求」
勧め[hortative]・命令[jussive] ・譲歩[concessive] ・願望[optative] :否定辞はne.
1. 勧め(おもに1pl.で)
e.g. Amemus patriam. (われわれは)祖国を守ろうではないか.
2. 命令(おもに2,3人称で)
e.g. Ad nos litteras mittas. (あなたは)私たちに手紙を送ってください.
e.g. Taceas. 黙って(いて)くれ.
e.g. Hoc fiat. これはなされるべきだ(これをしてくれ).
e.g. 〔否定〕Ne eat. 彼は行かないべきだ(彼を行かせるな).
e.g. Si quis vult post me venire, abneget semetipsum, et tollat crucem suam quotidie, et sequatur.(VulgLuc.9.23)「(23:それから、イエスは皆に言われた。)『わたしについて来たい者は、自分を捨て、日々、自分の十字架を背負って、わたしに従いなさい。』」
e.g. Ad nos litteras mittas. (あなたは)私たちに手紙を送ってください.
3. 譲歩
e.g. 〔否定〕Ne sit summum malum dolor, malum certe est.
たとえ苦悩が最大の不幸でないにしても、それは確かに(ともかく)不幸なのだ.
4. 願望
e.g. Valeant,cives mei. 元気であれ、我が市民よ.(valeo接続法:別れの辞)
e.g. Gaudeamus igitur, iuvenes dum sumus. さあ喜ぼう、我ら若きうちに.(「Studenslied学生の歌」以下の資料を参照)
e.g. Utinam illum diem videam. どうかその日を目にすることができますように
87

【資料】「学生の歌」
参考: かならず元のサイトを参考にしてください。楽譜が載っています。
「仙台ニューフィルハーモニー管弦楽団」の団員jurassicさんのHPです。
    http://www.ne.jp/asahi/jurassic/page/sound/gaudeamus.htm
    http://www.ne.jp/asahi/jurassic/page/rule_f/gaudeamus.htm
Gaudeamus igitur, juvenes dum sumus,
post jucundam juventutem,
post molestan senectutem,
nos habebit humus.
Vivat academia, vivant professores,
vivat membrum quodlibet,
vivant membra quaelibet,
semper sint in flore!
Vivant omnes virgines, faciles, formosae,
vivant et mulieres,
tenerae, amabiles,
bonae, laborisae!
Vivat et respublica et qui illam regit,
vivat nostra civitas,
maecenatum caritas,
quae nos hic protegit !
さあ陽気にやろう 僕らが若い間に
憂いのない青春時代を経て
暗い老年時代を経て
僕たちは大地に帰るのだから
健在なれ大学よ 健在なれ教授よ
健在なれ朋友よ
健在なれ同友よ
永遠に花と栄えるように!
麗しく可愛い乙女子よ 健在なれ
精励なる婦人たちよ 健在なれ
たおやかで 愛らしく
心根も優しく 誠実であれ!
国家よ それを司る者よ 健在なれ
町よ 健在なれ
われらを守る愛と保護の庇護者よ
健在なれ!  (宇野 道義訳)
2,3番は別の歌詞バージョンがあるようです.
88

2-2-2 「可能性」
可能性、(その裏返しとして)懐疑・反問 :否定辞はnon(又はminime).
1. 可能性
e.g. Aliquis hoc dicat. 誰かがこれを言うかもしれない.
e.g. Discipulos non caedi velim. 生徒達がむち打たれることが、あってはならない.
inf. pass.<caedo, ere
2. 懐疑・反問
e.g. Quid faciam, quid non faciam.
私は何をすることができようか、しないことがあろうか.
 3. 接続詞について
3-1 複文〔主文〕〔従属文〕と従位接続詞
 〈等位〉接続詞(例えばet)によって、二つ(以上の)文が互いに等しい立場でつながっている重文に対して、〔主文〕〔従属文〕という主-従の関係で複文を構成する接続詞は、〈従位〉接続詞と呼ばれる.
 ただし従位接続詞以外に、関係詞によっても複文が構成される.
3-2 従位接続詞と接続法
 [従位接続法+直接法]は様々あるが、接続法とともに用いる例をあげておく.
3-2-1 ut+接続法/ne+接続法
 目的文、譲歩文、程度文・結果文を導く.utは最も多く接続法とともに用いられる.
3-2-2 si+接続法/nisi+接続法
 仮定文・条件文を導く.「もし〜ならば/〜でないならば」
3-2-3 dum, modo, dummodo+接続法
 条件文を導く.「〜するかぎり」「〜しさえすれば」
3-2-4 quamvis, cum, etsi, tametsi, etiamsi, quamquam, licet+接続法
 譲歩文を導く.「たとえ〜であるにしても」「〜にもかかわらず」「〜であるけれど」「〜であるがしかし」
3-2-5 cum, dum, donec, quamdiu+接続法
 時間文を導く.「〜するとき」
3-2-6 cum+接続法
 原因文を導く.「〜するので」
89

 4. 時制の対応関係(consecutio temporum)
4-1 意味
4-1-1 複文で、〔主文〕と〔従属文〕の動詞間で、時制の対応関係が定められている.基本的に、この対応関係に合わせなければならない.
4-1-2 6時制を〔第一時制〕〔第二時制〕の二つのグループに分ける.
4-1-3 〔第一時制〕:現在・未来に関係する時称、〔第二時制〕:過去に関係する時称
4-2 〔時制の対応関係〕と各時制の関係
〈第一時制と第二時制〉
第二時称
第一時称
過去
現在
未来
未完了系「〜して」
「未完了過去」
(未完了時称を示す)

現在幹+接辞(-ba)+人称語尾
「現在」
現在幹+人称語尾
「未来」
I・II活用
現在幹+接辞(-bo)+人称語尾
(ただし-bo/-bi/-buと揺れる)
III・IV活用
動詞幹+接辞(-e)+人称語尾
(ただし1人称= -a)
いた
いる
1人称:意志未来・単純未来
   「〜いるつもりだ」
2/3人称:単純未来
   「〜いるだろう」
完了
系「〜してしまって」
「過去完了」
「(現在)完了」
「未来完了」
歴史的
完了
現在
完了
 
過去のある瞬間に完了した動作
過去の動作が現在に及んだ結果
 
完了幹+ esse未完了過去
完了幹+人称語尾
 
いた
いる
いるだろう
〈第一時制と第二時制〉直接法/接続法の別で
直接法
接続法
不定法
未完了/完了
未完了系時制
完了系時制
未完了系時制
完了系時制
──
第一時称
現在
未来
{現在}完了
未来完了
現在
完了
現在
未来
第二時称
未完了過去
[歴史的]完了
過去完了
未完了過去
過去完了
完了

90

4-3 〔時制の対応関係〕とは
4-3-1 前述4-2の分類を念頭においた上で、主文と従属文との形式上の時制の対応関係は次のようになる.
従属文の動詞(接続法)
主文との前後関係によって
[未完了系]時制か[完了系]時制か
主文の動詞の
●[以前]
主文の動詞の
○[同時]
主文の動詞の
[以後]
主文の動詞i直接法j
第1時制
現在
scio...
未来
sciam... 未来完了
第1時制

●[完了系]時制
(接続法)
(現在)完了
... quid feceris

○[未完了系]時制
(接続法)
現在
... quid facias
未来分詞+
 sum(接続法)現在
... quid facturus sis
第2時制
未完了過去
sciebam...
完了
scivi...
過去完了
第2時制

●[完了系]時制
(接続法)
過去完了
... quid fecisses

○[未完了系]時制
(接続法)
未完了過去
... quid faceres
未来分詞+
 sum(接続法)未完了過去
... quid facturus esses
4-3-2 つまり、主文と従属文との、時制の対応関係は次のようになる.
@ 主文の動詞(直接法)と従属文の動詞(接続法)の関係
主文:第1時制〈現在、未来、未来完了〉(直接法)のいずれかである場合に、
従属文:第1時制〈現在、完了〉(接続法)のいずれかである
主文:第2時制〈未完了、完了、過去完了〉(直接法)のいずれかである場合に、
従属文:第2時制〈未完了過去、過去完了〉(接続法)のいずれかである
※ただし、主文の主語が完了(現在完了)ならば第1時制として扱う場合もある.
A 主文の動詞と比較して、従属文の動作が「同時」あるいは「未完結」の場合、
主文:第1時制(直接法) → 従属文(接続法)=現在
主文:第2時制(直接法) → 従属文(接続法)=未完了過去
※ただし、「未完結」「以後」なら、未来分詞+sum(接続法)未完了過去.
 特に間接話法(疑問/命令)において出てくる.
B 主文の動詞と比較して、副文の動作が「以前に起こった」あるいは「すでに完結」の場合、
主文(直接法)=第一時制 ならば→ 従属文(接続法)=完了
主文(直接法)=第二時制 ならば→ 従属文(接続法)=過去完了
91

4-3-2 時制の対応関係を次のように考えれば、判りやすいかもしれない.
(1)結論(主文の動詞〔直接法〕:第1時制か第2時制か=過去関連時制かどうか)に応じて、
主観的立場で捉えた内容を述べる枠組み(接続法の第1時制か第2時制か)が決まる.
主文の動詞〔直接法〕:第1時制 →従属文の動詞〔接続法〕:第1時制
e.g. : Scio quid facias. Sciam quid feceris. ...等
主文の動詞〔直接法〕:第2時制 →従属文の動詞〔接続法〕:第2時制
e.g. : Sciebam quid faceres. Scivi quid fecisses. ...等
(2)その場合、結論と、主観的に捉えた内容との時間的な相違──
結論(主動詞)に対して[以前]/[同時]/[以後]──は、
[以前]→[完了系]時制/[同時]→[未完了系]時制
と時制の対応が決まっている.
間接話法(疑問/命令)では、[以後]は未来分詞+sum接続法で表せるが、sum接続法の部分は[同時]に準じ時制は現在か未完了過去.
4-4 〔時制の対応関係〕の適用
4-4-1 厳格に守られる場合:間接話法(疑問/命令)、目的文
4-4-2 厳格に守られない場合がある:その他の条件文、結果文など
 5. 間接話法(疑問/命令)
いずれも時制の対応関係の規則に従う
5-1 間接疑問文
5-1-1疑問詞による疑問文
@「疑問文の疑問詞→接続詞の代わりにそのまま疑問を導く」
A「疑問文の動詞→接続法に変える」
5-1-2疑問詞によらない疑問文
@代わりの接続詞(num, utrum, siなど)で疑問を導く
A「疑問文の動詞→接続法に変える」
5-2 間接命令文
5-2-1肯定命令
接続詞なしで、動詞を接続法に変える
5-2-1禁止命令
接続詞neで疑問を導き、動詞を接続法に変える
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 6. 目的文
6-1 ut(否定はne)
ようやくutを用いる従属文の用法.非常に多く出てくるが、その中の一つが目的文.
〈肯定〉ut「〜するように」 / 〈否定〉ne「〜しないように」
e.g. : Oportet esse, ut vivas. Non vivere ut edas.
  生きるためにいる(存在する)べきだ.食べるために生きるのではない..
6-2 意味
6-2-1 ut/neによって、主文の〈目的〉内容をしめす従属文が導かれる.
6-2-2 否定:ne→「話者の要求」の願望・意志などの用法の一つとみることができる.
6-2-3 関連する用法
(1)願望、進め、忠告、命令
e.g. : Moneo ut agentem te ratio ducat. 理性があなたを導くように、勧めます.
e.g. : Amicus a me petivit ut secum irem. 友は私に、一緒に行くようにと願った.
(2)危惧を表す用法.(次項参照)
6-3 危惧・恐れ(意志)を表す用法
6-3-1 主動詞に、危惧・恐れを表す動詞が用いられる場合、従属文(恐れる内容)が肯定内容でもneを用いる.
意志を表す用法の一つと考えることができる.
6-3-2.危惧・恐れを表す動詞:vereor, timeo, 等
e.g. : Vereor ut venias.
×君が来ることを恐れる→○君が来るように心配する
         または○君が来ないのではないかと心配する
e.g. : Vereor ne venias.
×君が来ないことを恐れる→○君が来ないように心配する
          または○君が来るのではないかと心配する
e.g. : Timeo ne errem.  過ちを犯すのではないか、と恐れる.
「〜では(肯定)ないか」という危惧・恐れをneが表すと考えれば判りやすい.
6-3-3.「〜ではない(否定)のではないか、と(恐れる)」
ut またはne nonを用いる.
 7. 程度・結果文
7-1 結果を表す
自然の成り行き(可能性)の結果とみなせる.
否定は ut non ... / quin ...
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7-2 accidit ut...(non)
it happens that 〜に相当する.
e.g. : Accidit ut esset luna plena. 満月になった←満月になる、という事が起きた.
7-3 程度・結果
7-3-1程度
[主文](それ程)〜である [従属文]〜である程度に
e.g. :Non sum ita hebes ut istud dicam.
そんなことを言う程、私は間抜けでない.
7-3-2結果
[主文](非常に)〜である [従属文](その結果として)〜である
e.g. :Tanta fuit vis amoris ut nemo duos separare posset.
愛の力が非常に大きかった、それで誰も二人を引き離せなかった.
 8. 条件文・譲歩文
8-1 条件
8-1-1 si/nisi
肯定si「もし〜なら」/否定nisi「もし〜でないなら」
8-1-2 条件の内容によっていくつかの用い方がある.
(1)事実をあらわす条件condicio realis
(2)現実に可能性のある仮定condicio potentialis
現在の仮定→接続法現在
過去の仮定→接続法完了
(3)現実に不可能な仮定condicio irrealis
主文・従属文とも、接続法を用いる.
現在の事実に反する仮定→接続法未完了過去
過去の事実に反する仮定→接続法過去完了
8-2 譲歩
8-2-1 etsi/etiamsi/quamvis
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【接続法の例文】
1 間接疑問文
1-1疑問詞による疑問文
・Hodie expertus sum quam caduca felicitas esset. (Phaedrus)
  今日、私は、どれほど幸福がはかないものであるか、試された。
・Magister quaerebat ubi terraemotus accidisset.
  先生は、どこで自身が起きたか、尋ねた。
・Volo scire quid agas et ubi hiematurus sis. (Cicero)
  あなたが、今何をしているのか、どこで冬を越すのか、私は知りたい。<hiemo, are
1-2疑問詞によらない疑問文
・Nescio num verba mea intelligas.(← メIntelligisne verba mea? モ)
  私の言うことを、あなたは理解しているのかどうか、私は知らない。
・Nescio utrum hoc verbum sit an falsum.
  これが本当かあるいは嘘なのか、私には判らない。
・Nescio utrum hoc verbum sit necne.
  これが本当かあるいはそうでないのか、私には判らない。
2 間接命令文
・Imperavit vobis ut hoc faceretis. (←Imperavit, メhoc facite!モ)
  彼はあなたがたに、これをするように命じた。
(Jubeo te hoc facere. ←Jubeo, メhoc fac!モ)
  わたしはあなたに、これをするよう命じる。
・Dicit ne abeat. (←Dicit, メnoli abire!モ[noli+inf.]/Dicit, メne abieris!モ[ne+subj.])
  彼は(かの人に)出発するなと言う
3. 目的文
・Heri ad flumen ivimus ut nataremus.
  昨日、私たちは川へ泳ぎに行った。
・Hoc dicit ut eos juvet.
  彼らを助けるために、彼はこう言う。
・Discedit ne id audiat.
  彼はそれを聞かないように立ち去る。
4 危惧・恐れ(意志)を表す用法
・Vereor ne fratres tui in morbum incidant.
  お前の弟たちが病気にならないか、と恐れています。
  (「病気になること」という否定的内容を危惧neする)
・Timuit ne non succederet.
  成功しないのではないか、と彼は恐れた。
  (「成功しないことnon succedere」という否定的内容を危惧neする)
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5. 程度・結果文
結果文:慣用的な表現accidit ut...(non)など
・Cito scribendo non fit ut bene scribatur.
  早く書くことによってきれいに書けるということにはならない。
他、〜することから外れているabest ut .../〜ということが起きるevenit ut ....など。
5-1程度
・Ita pulchra est ut deam putes.
  君が彼女を女神だと思う程、彼女は美しい。
  (彼女が美しい、その程度を示す。主文の性質・傾向・程度を示す)
5-2結果
・Custodius est ut non effugeret.
  彼は監視されていて逃げられなかった。
6. 条件文
可能性のある仮定
・Tu si hic sis aliter sentias.
  もし仮にあなたがここにいたなら、違った風に考えるでしょう
  (現在可能性ある仮定:接続法現在
・Si id credideris sine dubio erraveris.
  もし仮にそれを信じたのだったら、あなたはきっと間違えたでしょう
  (過去可能性ある仮定:接続法完了
可能性の無い(非現実の)仮定
・Si pecuniam nunc haberem tibi darem.
  もし今私がお金を持っていたならば、あげるのですが。
  (現在非現実の仮定:主文・従属文とも→接続法未完了過去
・Si pecuniam tunc habuissem tibi dedissem.
  もしその時に私がお金を持っていたならば、あげたのですが。
  (過去非現実の仮定:主文・従属文とも→接続法過去完了
7 譲歩
時制の対応関係は条件文と同じ。
・Lux, etsi per inmunda transeat, non inquinatur.
  光は、たとえ汚いところを通っても、汚されることがない。
非現実の譲歩も同様。
・Quamvis haberem pecuminam tibi non darem.
今、たとえお金をもっていても、君にはあげないだろう。
・Quamvis tunc habuissem pecuminam tibi non dedissem.
あの時、たとえお金をもっていたとしても、君にはあげなかっただろう。
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