スペイン語の音 Fonología de la lengua española

3. 1. 音節とは Las sílabas

「音節」とは?

 音節とは音の連鎖、音の塊の最小単位のことだ。基本的には一つの母音が核になりその前や後ろに子音を従えることができる。「基本的には」と書いたのは、英語では音節の核になる母音が弱くなって場合によっては母音がなくなってしまう音節もあるからだ。また日本語でも「ん」(撥音)や「っ」(促音)や「ー」(長音)を一つの音節とみなすことがある。ただし日本語ではこれらも含めて「音節」ではなく「モーラ(mora)」あるいは「拍」とみなすことが多い。で話をスペイン語に戻すとスペイン語の音節は必ず母音を核に持っている。

 音節は英語では "syllable" で、スペイン語では "sílaba" と言うが、語源は「一緒にする」という意味で、そこから「音の集まり」という意味になった。

「音節」はリズムの単位

 「音節」の概念は特に言語のリズムの単位として重要だ。ここで英語の "syllable"、スペイン語の "sílaba" 、日本語の「シラブル」の音を聞いてみよう。

 だいたいの話をすると、英語では強勢(アクセント)のある音節が長くなり、それ以外の音節は短く弱くなる。「ダードゥドゥ」という感じ。日本語では「モーラ(拍、音節」がだいたい同じ長さになってリズムを作る。「ダダダダ」という感じ。スペイン語では強勢(アクセント)のある音節が長くなるが、それ以外の音節もしっかり発音される。「ダーダダ」という感じ。

 このように音節は各言語のリズムを作り出す単位になっている。言語固有のリズムというものは言語のやりとりをする際にとても重要な役割を担っている。コミュニケーションとは突き詰めればあるヒトの脳と別のヒトの脳が共鳴することだと言えるが、「脳の共鳴」にはリズムが重要なのだ。そしてリズムの単位が「音節」だとすれば、「音節」を理解した上で言葉を覚え、言葉を使うことは言語学習の第一歩だとも言える。

音節の中の子音

 英語の場合の一部のケースを除いて音節の核は母音だという話をしたが、音節を上手に操る上でもう一つ重要なことは一つの音節の中の子音をどう扱うかということだ。

 これは特に日本語母語話者にとって重要だ。なぜかというと日本語のモーラ(拍、音節)には日本語特有の特徴があってそれが英語やスペイン語の音節を捉える邪魔になるから。その特徴とは第一に日本語のモーラ(拍、音節)はほとんどが母音で終わる音節(開音節)で、子音で終わる音節(閉音節)がないこと。第二には英語やスペイン語では音節の中で二つ以上の子音が連続することがあるが、日本語では基本的にそれはないこと。この違いを埋めるために日本語母語話者は、子音の後に勝手に母音を入れて発音する傾向がある。母音がないところに母音が入れば音節が一つ増えてしまうわけで、音自体も変わってしまうしリズムも変わってしまう。これは「脳の共鳴」には極めてよろしくない。

 子音が連続する例をいくつか見てみよう。

plástico (plastic) [pl] [st]
dramático (dramatic) [dr]
descriminación (descrimination) [scr]

 モデルの音声を確認しよう。日本語母語話者の耳はこれらの連続した子音の間に母音があるように錯覚することがあるが、実際には母音はない。このほかにも連続した子音がある場合、余計な母音を加えることなく正しく発音するように気をつけよう。

スペイン語は英語に比べて開音節が多い

 英語は子音で音節が終わる閉音節が多い。スペイン語にも閉音節はあるが、英語よりは開音節が多い。このことはスペイン語が日本語母語話者にとって親しみやすい要因になっている。ただし英語を学習した我々は英語とスペイン語の違いに気をつける必要がある。

 別のところで見たように英語の "important" はスペイン語では "importante" だ。語源が同じなので綴りはほぼ同じ。だがよく見るとスペイン語の "importante" は最後が "e" で終わっていることが分かる。英語では綴りに "aeiou" のアルファベットが入っていても母音の発音がないこともある。しかしスペイン語では綴りに "aeiou" のアルファベットが入っていれば必ず母音が対応している。私たちは英語の "important" に慣れているのでスペイン語でも最後の "e" を見落としてしまうことがある。気をつけなければいけない。二つの発音を改めて聞き比べてみよう。最初が英語、次がスペイン語だ。

 もう一つ例を見てみよう。日本語の「よろしく」とか「よろしくお願いします」に対応した表現 "Mucho gusto"。開音節の好きな日本語母語話者がなぜかこの最後の "gusto""gust" というふうに "o" を抜いて発音することがよくある。気をつけてしっかりと "o" の発音をして欲しい。

 最初は正しい発音、 "Mucho gusto"。次は "o" が抜けた誤った発音だ。聞き比べて正しい発音ができるようにしよう。

 ここまでは母音があったらしっかり発音しようという話し。英語の発音との違いに気をつけるのがポイント。

子音で終わる閉音節に勝手に母音を加えない

 ここからは日本語のクセを直す話だ。これが思いの外難しい。最近は「レアル・マドリー」と表記されることが多くなったが、スペインの首都 "Madrid" はカタカナでは「マドリード」と書くことになっている。当然日本語では最後の「ド」は開音節になってしまう。しかし実際のスペイン語の発音の末尾に "o" はない。カタカナ表記に引きずられて勝手に母音を加えないように気をつけよう。

 最初が正しい "Madrid" の発音。次が最後に "o" を加えた日本語式の間違った発音だ。比べてみよう。

 もう一つの例を見てみよう。「大学」"university" を意味する "universidad" 。最後はこれも "Madrid" と同じく "d" で終わっている。こういう発音は日本語にはないので、つい "o" を加えてしまいがちだ。気をつけよう。

 最初が正しい "universidad" の発音。次が最後に "o" を加えた間違った発音だ。比べてみよう。

語尾を伸ばす発音はスペイン語学習の天敵

 特に語尾を伸ばすクセのある人は人一倍気をつけて欲しい。「だからぁ、それでぇ、そうなんですぅ」という話し方のリズムは一度身についてしまうとなかなか抜けない。これがスペイン語の発音の天敵なのだ。

 「さあ行こう」という意味になる "¡Vamos!" で見てみよう。最後は子音の "s" で終わっている。最初に正しい発音、次は語尾に母音を加えて伸ばした間違った発音。聞き比べて正しい発音を身につけよう。

「二重母音」「三重母音」の知識とアクセントの規則へ

 スペイン語の「音節」の話は、このほか「二重母音」「三重母音」の話を押さえた上で、アクセントの規則と関連して覚えていくとよい。ちょっと厄介だが、このようなポイントを押さえていけば、日本語母語話者のスペイン語の発音はグンとスペイン語母語話者なみに近づいていく。