スペイン語の音 Fonología de la lengua española

1. 2. スペイン語の音の特徴 Características de la fonología española

日本語母語話者は「発音がきれい」

 日本語を母語とする者にとって英語の発音を身につけるのが難しいのは、英語の音の体系が日本語の音の体系とかなり異なっているからだ。生まれたばかりのヒトの脳は、どの言語の音も身につけることができるが、幼児期のごく早い段階で、母語にない音は処理できなくなってしまう。

 一方、スペイン語の音は英語に比べれば日本語の音に近い。これは、日本語母語話者がスペイン語を学ぶ上でとても有利な点だ。日本語母語話者の場合いくつかの違いに注意しさえすれば、スペイン語圏の人々から「発音がきれいだね」と言われる確率が高い。「英語の発音が難しい」ということで外国語学習を敬遠してきた人もスペイン語の学習を通して「発音が上手だね」と褒められるようなポジティブな外国語学習の体験を是非味わって欲しい。

日本語の音 < スペイン語の音 < 英語の音

 スペイン語の音は英語の音に比べて日本語の音に近い。具体的にどんなところがそうなのか説明しよう。

 スペイン語の音と英語の音で異なる点のうち主要なものを挙げた。そして、ここに挙げたスペイン語の特徴は日本語と共通している。それだけスペイン語の音は英語の音よりも日本語に近いのだ。

スペイン語の音と英語の音の違い
スペイン語 英語
母音は5つ 母音は10以上
母音で終わる音節が多い 子音で終わる音節が多い
音節を単位としたリズム 強勢を単位としたリズム
母音をはっきり言う傾向が強い 母音が弱くなることが多い
綴りと発音が対応している 綴りと発音が対応していない

イ 母音は5つ

 当該の言語で母音がいくつあるかというのは、実は簡単には決められない。ヒトが口を中心とした発声器官で発する音は千差万別。どこで境界線を引けばいいのか分からない究極的なアナログの世界だ。しかし言語ごとに大概の区別をしているので言語は成り立っている。この「大概」というのがミソだ。音声分析をすると形が違っていたとしても、その言語を話す人の耳には同じ音に聞こえればそれでいい。そういうスタンスで考えて数えるとスペイン語の母音も日本語の母音も共に5つ。そしてその5つの発音はほぼ同じ。

ロ 母音で終わる音節が多い

 音節とは音の連鎖、音の塊の最小単位。基本的には一つの母音を核として前後に子音を抱えることができる。音節が母音で終わるか、子音で終わるかで分類し、前者を「開音節」、後者を「閉音節」と呼ぶ。

 日本語の音節の多くは「開音節」だ。日本語の「五十音表」を考えてみよう。「ん」以外は「開音節」だ。実際には子音で終わる音節もあるけれど、基本は母音で終わる。そしてスペイン語にも「開音節」が多い。ただし、スペイン語には子音で終わる音節もあるので、それを日本語的に発音して、余計な母音を加えないように気をつける必要がある。

ハ 音節を単位としたリズム

 言語の分類のしかたに「強勢拍リズムの言語」と「音節拍リズムの言語」という分け方がある。英語は前者、スペイン語や日本語は後者だ。「強勢拍リズムの言語」とは、音の流れの中で強いアクセントのある音を基準にリズムが作られる傾向のある言語でということで、強いアクセントのある音の谷間にある音は弱く、早くなる。「ダダーダダ・ダダーダダ」という感じだ。「音節拍リズムの言語」のほうは、一つの音節に一つの拍が置かれるわけで「ダーダ・ダーダ・ダーダ」という感じ。日本語は後者に分類される。スペイン語も日本語もこの分類では同類だ。ただし、実際にはそうとも言い切れないところがある。日本語に比べればスペイン語の音は、アクセントのある音節は高く強く長く、それ以外の音節は低く弱く短くいう傾向がある。このリズムを掴むことは自然なスペイン語の発音を身につける上で重要だ。とは言え、リズムの観点からしてもスペイン語の音は英語よりは日本語に近い。

ニ 母音をはっきり言う傾向が強い

 上に書いたことと関連するのだが、英語では「強勢拍」と「強勢拍」の間隔を同じにしようとするので、強勢のない音節は非常に早く、弱く発音されることになる。その結果「母音がない音節」さえできてしまう。英語の important の発音はゆっくり発音すれば [ɪmpɔ́ːrtənt] だが、早くなると [ɪmpɔ́ːrtnt] になる。カタカナにすると「インポータン」が「インポートゥン」になる感じだ。決して「インポータント」ではない。このことが日本語母語話者にとって英語の発音を難しくする要因になっている。英語というとやたらと母音を大袈裟に発音しているイメージを持っている人がいると思うが、実際は英語は母音が弱くなることの多い言語なのであって、母音を上手に抜いて発音すると英語らしくなる。これに対してスペイン語では母音が消えることはないのであって、そういう意味で日本語に近いのだ。

 英語の "important"、スペイン語(メキシコ)の "importante"、日本語の「インポータント」の発音を聞き比べてみよう。

ホ 綴りと発音が対応している

 綴りと発音が対応していないことは英語の特徴だと言ってもいいほどだ。"enough" と "thought" という二つの単語にはどちらも -ough- という共通の綴りがあるが、その部分の発音はぜんぜん違う。こんな例は山ほどある。英語圏では母語話者もこの問題に悩まされており、非母語話者の我々には頭痛の種だ。これはブリテン諸島がフランス語を話すノルマンディ人に征服され、英語にフランス語が侵入した結果、英語の綴りと発音がごちゃごちゃになったことによる。

 ラテン語の系統をそのまま受け継いできたスペイン語にはそのようなことはない。基本は「ローマ字」読み。「ローマ字」とはラテン語が話されていたローマの言語を表す文字という意味だ。一つの綴りには一つの読み方しかない。綴りと発音の関係を一度習得すれば、初めての単語でも読めるのである。スペイン語のテストでは発音問題はあまり意味をなさないのだ。

音の近さを有効に利用しよう

 以上述べてきたようにスペイン語の音は日本語の音と多くの点で共通しており、日本語母語話者にとってスペイン語の発音は習得しやすい。外国語を習得する上でこのことはとても大きなアドバンテージだ。英語を習得する上での日英ニ言語の音の隔たりから生じるディスアドバンテージを考えれば、その恩恵が身にしみるのではないだろうか。これを利用しない手はない。いくつかのスペイン語の音の特徴を掴みさえすれば、「発音がきれいだね」と言われることは間違いない。スペイン語を学ぶ励みにして欲しい。

 英語の "international"、スペイン語(メキシコ)の "internacional"、日本語の「インターナショナル」の発音を聞き比べてみよう。