スペイン語の音 Fonología de la lengua española

1. 1. 言葉の音とは Fonología de lenguas

「単語の発音」だけが「発音」じゃない

外国語の勉強をする時、「発音が難しい」とか「発音が上手だ」とか言う。その時の「発音」とは、一つ一つの単語の発音を指していることが多いのではないだろうか。だが、言語の音というのは、決して単語の発音にとどまる話ではない。

かつての中学校の英語のテストは、最初に「発音問題」が出てくるのが相場で、それは単語の「発音」と「アクセント」の四択問題だったりした。

これには大いに問題があった。英語の場合、一つ一つの単語の発音は、状況によってかなり大きく変化するし、アクセントも移動したりするから、単語だけ示してどう発音するか問うても、答えが一つとは限らない。言語の音は、単音レベルでの話も重要だが、文レベル、談話レベルでの話のほうがもっと重要なのである。

単語一つ一つの発音の違いも重要だということは間違いない。母音一つの違い、子音一つの違い、アクセントの違いで、人間は意味の違いを伝え合っている。「行きますか?」と「来ますか?」は、書けば明確に違うが、音だけで伝えるとなるとほんの紙一重の違いでしかなくて、この違いで意味が大きく変わってしまう。「病院」と「美容院」などもそうだ。

だが、ある言語ができるということは、一つ一つの単語の発音が辞書通りに発音できるという話にとどまらない。その言語で音がどのように使われているかということについて、より広い範囲の知識を持ち、実際に使いこなす能力が必要になる。

「単音・音節・語・節・文・段落」など異なるレベルでの音

実際、「単音」のみで意味を表すことは稀だ。日本語の場合、母音一語の名詞は「胃」「鵜」「絵」「尾」といったところだろう。この他に「ん?」なんてのがある。「助詞」には母音一音の「を」や「へ」がある。もっとも日本語は「単語」の概念が英語やスペイン語とは違うから話は複雑だ。英語では不定冠詞の "a" ぐらいのものだ。スペイン語ではもう少し多くて、"a" (前置詞 to)、"e" ([i] で始まる単語の前で and)、"y" (and)、"o" (or) 、"u" ([o]で始まる単語の前で or)というように5つある母音のそれぞれが単音で単語になり得る。しかし子音のみで単語が構成されることはない。基本的に幾つかの「単音」が組み合わされてはじめて意味が表されるようになる。

このような「母音」あるいは「母音」と「子音」が組み合わされて音の単位を構成しているものを「音節」と呼ぶ。一般には「音節」は核となる母音の存在を前提とする。ただし英語などの場合には核になる母音がない場合でも「音節」と捉えられる音の連鎖がある。日本語の場合には先にあげた「ん」(促音)や小さい「っ」で示される「撥音」も音節として捉えられるが、一般的な「音節」とは区別して「拍」とか「モーラ(mora)」と呼ばれることが多い。何れにしても、こういった音の連鎖あるいは音の塊で「単語」というものが作られる。そして音節が二つ以上ある単語では強弱、高低、長短などからなる「アクセント」が生じることになる。

「単語」はさらにいくつか連鎖して意味をなし、「節」や「文」を作る。複数の単語からなる節や文ではイントネーション(抑揚)、プロミネンス(卓立)、リズムなど、単語のレベルを超えた音のパターンが作られることになる。このような単語のレベルを超えた音のパターンは、それ自体が意味を持つこともあるし、また言語それぞれに自然なパターンが存在する。

さらに文を超えたレベルの音の扱いとしては、間の置き方、緩急のつけ方、発声のし方などで、文字言語であれば「文体」に相当する話し方のスタイルの区別をつけることができる。

よりダイナミックなパターンとして言語の音をとらえよう

このように、言語の音は「単音」レベルのとどまらないし、語の中の音の一つ一つもより大きな単位の音の連鎖の扱われ方によって変化する。音によるコミュニケーションを行っている時、私たちは一つ一つの音を正確に話したり聞いたりしているのではなく、大まかな音のパターンのやりとりを通して意味を伝え合っている。個々の音もさることながら、それらの連鎖からなるパターンについての知識と運用能力を身につけることが欠かせないのだ。改めて新たな言語を学習するにあたって、言語の音についての自分の捉え方を今一度振り返り、よりダイナミックな視点を持つようにしていきたいものである。